はなこたちゃん

悪人のはなこたちゃんのレビュー・感想・評価

悪人(2010年製作の映画)
5.0

光代:『私、考えてみたら、今迄ずっと国道沿いを行ったりきたりしよったとよね』

祐一:『周りが海に囲まれて、もう何処にも行けんような気がする』

2人が出会い、急速に惹かれあったのは、
2人の生い立ちが
余りに孤独で閉塞的だったからだろうか…



祐一:『向こうが悪いんだから、自分が悪いことをしたとは思っとらんかった。光代と会うまでは、生きとるのか、死んどるのかも分からんかった。光代と一緒に居ると苦しゅうなる。』

幼い頃母に捨てられた時からずっと心が置き去りにされたまま空虚な日々を生きてきた祐一

光代と出会い、人から愛されたり、人を愛したりする事の本当の喜びや苦しみを初めて味わい、初めて『生きている』自分自身と向き合うことが出来たのではないか…

人間は皆、二面性を持っている
大切に育てた娘も、親の知らない何処かで誰かを傷つけたり疎ましく思われていたり

罪を犯した祐一も、
それまでは真面目に働きながら祖父母の支えになっていたし

妻に辛辣な態度をとる無骨な佳乃の父も、内面は妻や娘を慈しむ深い愛情の持ち主であるし

如何わしい健康食品販売の連中
センセーショナルに騒ぎ立てるマスコミ
軽薄で自堕落な学生増生
自己顕示欲が強く傲慢な佳乃
母親に我が子を押し付けておいて、『よか子に育ててくれたね』と年老いた実母を非難する祐一の母
等、法にこそ触れないけれど、殺人を犯した祐一だけが悪人とは言い切れない気がするし、
そもそも悪人とか善人とか、簡単に二分できる訳がないし
キャラクターそれぞれのこうした二面性をきっちり描写している原作と脚本の素晴らしさ👏と、それを見事にリアルに演じきっている、驚くべき芸達者な役者さん達、主演の妻夫木聡さんはもちろん、深津絵里さん、樹木希林さん、光石研さん、柄本明さん、バスとタクシーの運転手役のお2人、そして、
岡田将生さんと満島ひかりさんの好演あってこそのこの作品の完成度の高さ、本当に素晴らしい演技でした

佳乃の父:『あんた、大切な人はおるね、その人が幸せなら、自分まで嬉しくなる様な、そんな人はおるね?』

この台詞に号泣です。