あんず

愛しきソナのあんずのレビュー・感想・評価

愛しきソナ(2009年製作の映画)
3.8
ヤン・ヨンヒ監督が可愛い姪っ子ソナちゃんやその家族を撮影しているホームビデオのよう。劇的なことは起こらないし、外食や誕生会は楽しそう。けれど、ソナちゃんと家族の日常は私たちからすると、非日常で異常ということが何気なく入って来る情報から分かる。ソナちゃんらが暮らすのは北朝鮮なのだ。

2009年の作品だがから撮影はもっと前なのかな。日本製ポテトチップスがガラスのショーケースに入っていて、気軽に買える値段ではないことに驚いた。水道を使えるのは1日2時間で、生活に必要な食器や布団などの日用品は日本から送ってもらうことで何とか生活が成り立っている。

相変わらず、監督のお兄さんらがどんな仕事をしているのかは明かされない。住居を見る限り、決して貧しい暮らしをしているようには見えないから、きっともっともっと苦しい生活を強いられている人も沢山いるのだろう。

劇場の前で、日本で監督が観た演劇の話を楽しそうに聴くソナちゃん。自らカメラを止めるよう言うシーンは印象的だった。子どもでも分かっている、この国には言論統制のあることを。滅多に食べられない外国人向けレストランで長いこと注文に迷うソナちゃんに監督は、失敗するのも経験だから思ったように頼むよう言う。確かに何事も経験だが、ソナちゃんの住む国ではそもそも言論も選択も自由に出来ない。その日を最後に監督は前作『ディア・ピョンヤン』が原因で北朝鮮への入国が禁じられ、ソナちゃんと会えなくなってしまった。

家族や親族と会えなくなる危険を侵しても、映画を私たちに届けてくれたことに監督の信念を感じる。いつかまたソナちゃんらと会えることを願うばかりだ。
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