サマセット7

ファインディング・ニモのサマセット7のレビュー・感想・評価

ファインディング・ニモ(2003年製作の映画)
4.0
監督は「バグズライフ」「ウォーリー」のアンドリュー・スタントンと、「トイストーリー2」「リメンバーミー」のリー・アンクリッチ。

[あらすじ]
オーストラリア近海グレートバリアリーフにて、カクレクマノミのシングルファザー、マーリンは一人息子ニモを過保護なほどに大事に育てていた。
しかし、父の過干渉への反発をきっかけに珊瑚礁を離れたニモは、人間のダイバーに捕えられてしまう。
ニモを取り戻すため、マーリンは、健忘症のナンヨウハギ、ドリーを道連れに旅に出る!!
一方囚われのニモは、水槽の中で奇妙な魚たちに出会い…。

[情報]
トイストーリーで世界初の3DCGアニメーション映画を大成功させたピクサーアニメーションスタジオが2003年に公開した、5番目の長編アニメーション作品。ディズニーとの共同製作。

この時期のピクサーの作品は恐るべき高打率で知られる。
トイストーリー1と2、バグズライフ、モンスターズインと3億ドルから5億ドルへ、毎作品ヒットを飛ばし、しかも作品を重ねるごとに売り上げを伸ばしていった。
今作に至っては、世界興収9億ドルを突破し、ピクサーの覇権を知らしめた。
ディズニーとの合併により完全子会社化し、ピクサーのトップ、ジョン・ラセターがディズニーのクリエイティブ部門トップに就任、実質的にディズニーを支配下に置くのは、今作のわずか2年後である。

オモチャ、虫、お化けと、アニメーションでしか語り得ない物語にこだわってきたピクサーが今作で挑んだのは、海中の魚たちの物語!!
この、斜め上の発想こそがピクサーたる所以であろう。
今作で主人公父子を務めたカクレクマノミは、イソギンチャクとの共生で知られる海水魚だが、今作のヒットに伴い大人気魚となった。

今作はアカデミー賞長編アニメーション部門を獲得した。
一般層、批評家共に広く支持を受けているが、特に批評家からは極めて高い評価を受けている。

[見どころ]
流石はピクサー!!
練りに練られた脚本構成!!
その結果浮かび上がる、親子二世代の観客が、それぞれ世代に応じた胸に沁みるメッセージを受け取るという多層性!!!
キャラクター!冒険!!海中アクション!!!
全てレベルが高い!!
海という設定を活かした海洋生物たちの活躍は、ただ見ているだけで楽しい。

[感想]
正直言って舐めていたが、ガツンとやられた。
ピクサー、すごいよ…。

今作は、明確に親子で映画を見に行く層をターゲットとして設定しており、親世代、子世代が両方とも楽しめて、しかも、それぞれが世代に応じた人生に効くメッセージを受け取ることが出来る、という構造になっている。
この構造はトイストーリーにも見られたピクサーのお家芸だが、個人的にはトイストーリーよりも今作の方が刺さった。

今作では、父親マーリンと、息子ニモがダブル主人公である。
マーリンは過去の経験から、ニモは父親から「お前にはまだ早い」と挑戦を禁じられていたため、それぞれリスクをとる行動を極端に恐れている。
そんな2匹が、冒険(マーリンは遠路の旅、ニモは水槽からの脱出)に挑むことで、勇気を持って前に踏み出すことを知る。

子ども世代が見れば、勇気を持って前に踏み出すことの大切さを教える作品、となるだろう。
次から次とトラブルに次ぐトラブルが続く展開は、世代を選ばず惹きつける。

一方で、親世代が見ると、今作は明らかに、親の過保護、過干渉を戒め、「親の子離れ」を描いた作品であることがわかる。

ニモに勇気を持つことの大切さを伝えるのは、ツノダシのギル。彼は過保護なマーリンと正反対のキャラクターとなっている。
そして、マーリンに勇気を出すことと、子を信じて手を出さずに見守ることの大切さを教えるのは、ナンヨウハギのドリーである。

このドリーのキャラクターが絶妙だ。
健忘症のドリーは、直前の記憶すら維持できず、したがって、現在を生きるしかない。
彼女もまた、過去の苦い経験に囚われたマーリンと対照的なキャラクターだ。
エキセントリックで、一見お荷物とも思えたドリーの前向きさ、信じる気持ち、深い知見、そして勇気が、臆病だったマーリンを変えていく。
極めて重要で特異なキャラクターであるドリーの過去は今作では全く語られず、続編「ファインディング・ドリー」で語られることになる。

終盤、マーリンの、友として、親としての成長が試されるシーンは、それまでの文脈が活きて感動を増す名シーンだろう。

サメのブルース、ウミガメのクラッシュ、ペリカンのナイジェルなど、脇を固めるキャラクターもそれぞれ海に住まう生き物の特徴を活かしていて楽しい。

ストーリーとしては典型的な行きて帰りし物語で、実にシンプル。
もう一捻りあっていい気もするが、今作の強いメッセージ性に照らすと、これくらい直球でちょうど良いのかもしれない。
むしろご都合主義的展開が、嫌いな人には引っかかるか。
全編にテンポがいいこともあり、個人的には気にならなかった。

[テーマ考]
今作は、リスクをとって一歩踏み出さなければ、大切なものを勝ち取ることは出来ないことを描いた作品である。

と、同時に、子供の成長のためには、親の過保護は百害あって一利なし、グッと堪えて信じて見守る必要があることを訴える作品でもある。

マーリン、ニモ、ドリー、ギル、クラッシュといった今作の主要なキャラクターたちはこの2つのテーマを表現するために巧妙に配置されている。

ついつい子供に良かれと思って必要以上に世話を焼いてしまう親世代としては、なかなか刺さったテーマだ。

ドリーの存在に照らすと、過去に囚われず、未来を恐れず、いまを生きろ!!というメッセージを受け取ることも可能だろう。

[まとめ]
海洋の魚たちの世界を舞台に、子を持つ親に対して強いメッセージを発する、ピクサーアニメーションの大ヒットした秀作。

印象に残ったのは、終盤のドリーの記憶に関するシーンだ。
彼女はなかなかの深みのある名キャラクターで、ドリーを主人公にした続篇が作られたのも頷ける。