GreenT

ミルクのGreenTのレビュー・感想・評価

ミルク(2008年製作の映画)
3.5
素直に泣かされました。

同性愛者だというだけで仕事をクビになったり、暴力を受けるかもしれないという恐怖にさらされて生きるのは相当辛いだろうな〜と思いました。

ミルクのところに、ミネソタの高校生から「僕は自殺します」って電話がかかってきます。「明日、ホモセクシャルを治す病院に送られる」と。きっと、『ある少年の告白』で描かれるような施設なんでしょうね。ミルクは、「今すぐバスに飛び乗って、ニューヨークやサンフランシスコや、大都市に行きなさい」というと、高校生は「僕、歩けないんです」と、車イスに乗っている姿が映る。

ミルクは「政治的なパワーを得るためには、カミングアウトするしかない」と言う。彼の議員事務所のスタッフは、大々的にミルクを応援し、オープン・ゲイなのにも関わらず、親には隠している人も多い。田舎へ行けば行くほど、同性愛者に対する偏見は強く、『ブロークバック・マウンテン』のようにリンチされたり殺されたりする可能性もある。それでも、真実を伝えなければ、いつまでも公民権は得られない、と言う。

これは痛いところを突かれました。同性愛者じゃなくても、人って「正しいことでも、主張して悪目立ちすると面倒くさいから」とおとなしくしているようなところがあるじゃないですか?劇中でも、同性愛者でありながら成功してすっごいお金持ってる人がいるんだけど、この人は「ゲイが目立った行動すると潰されるだけだから」と、恵まれた環境にいながら何もしない。「自分もこのタイプだなあ」と考えさせられました。

ミルクは「I'm here to recruit you!(あなたをリクルートしに来ました!)」って言うのがスピーチのトレードマークなのですが、同性愛者であることを隠さずアピールしている自分がもし暗殺されたら、それがおとなしくしていた同性愛者たちを怒らせ、目覚めさせるなら本望だ、みたいな、めちゃくちゃ覚悟を持った人で、政治家はこのくらい情熱があるべきなんだよな〜と思いました。

でもそうやって政治にのめり込んでいくことで、自らのラブ・ライフは崩壊します。そもそも、スコットという恋人とオープンに付き合いたいと思ったからサンフランシスコに来たのに皮肉なもんですが、やっぱり人間、体は一つ、一日は24時間しかない。仕事も家庭も100%ってのはできない。

公民権運動に駆り出されるミルクを影で悲しそうに見ているスコットを演じる、ジェームス・フランコがいいんですよね〜。スコットと別れた後にミルクと出会うジャックを演じるディエゴ・ルナもめちゃくちゃ上手い!甘えん坊な依存心の強いゲイの男性って感じがすごい。

また、男性同士のキスやセックスを堂々と、しかし男女の恋愛映画と同じ感覚でサラッと撮っているのも好感が持てる。

若い同性愛の青年を演じるエミール・ハーシュも好演しているし、あと、レズビアンの役を演じるアリソン・ピルも良くて、この2人はフレッシュな若手の雰囲気を映画に添えてくれています。

男性俳優たちは、いわゆる「ゲイ」の人たちの可愛らしいけどセクシーな仕草とか、なんかゲイの人って可愛いじゃないですか?!女の子よりも女の子っぽいような。そういう演技がすごく上手で、本当のゲイの人が観たらどう思うのかわかりませんが、私は名演だなと思いました。

もちろん、ミルクを演じるショーン・ペンが、それまでハードボイルドな男臭い俳優というイメージからコレを演ったというのが、当時は本当に衝撃だったのですが、めちゃくちゃハマり役で驚きます。この役でオスカーを獲ったときの映像がユーチューブで見れるのですが、ショーン・ペンを紹介したロバート・デニーロのスピーチが爆笑でした。

How did he do it?

一体どうやったのでしょう?

って聞くと、「こんな素晴らしい演技をどう演ったんでしょう?」って言っているように聞こえるじゃないですか?そしたら、

How for so many years that Sean Penn get all those jobs playing straight men?

どうやってこんな長い間、ストレートの男の役を貰ってこれたんでしょうか?!

だって。

この映画から10年あまり経って、同性愛者の映画での描写はどんどん増えているけど、現実でゲイバーやクラブの襲撃とか、ゲイの人をリンチするとか、そういうのはなくなっていません。ミルクの言う通り、本当の「政治的なパワー」を得るのには、映画でゲイが市民権を得るとか文化的に受け入れられることで満足せずに、直接政治に切り込んでいくしかないんだなあと思わされました。
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