こたつむり

ホルテンさんのはじめての冒険のこたつむりのレビュー・感想・評価

3.5
♪ 誰の真似もすんな 君は君でいい
  生きる為のレシピなんてない ないさ

真面目な運転士、ホルテンさん。
実直に勤めていたのに、定年退職の日に遅刻してしまって、そこから彼の日常はてんやわんや…なんてポップな予告編で手を伸ばしたのですが。

完全に予告編詐欺でした。
舞台が冬のノルウェーだからか、虫の呼吸のように静か。アメリカ的な分かりやすさや、フランス的な華やかさを期待すると肩が下がるレベルです。

でも、根底に転がっているのはシュールな笑い。
このギャップはある意味でクレイジーですよ。ふんわりとした見た目なのに、油断したらサクッと刺されてしまう狂気が流れているのです。

この筆致は面白いですね。
言葉にすると地味な内容(例えば、凍った坂道を滑り落ちていくサラリーマンとか)でも、映像にするとこんなに刺激的になる…と教えてくれました。

それに題材の選択も傍流のように見えて主流。
だから、タイトルや予告編の印象と真逆になるのも当然です。子供が喜ぶタイプではないのですから。

どちらかと言えば、人生折り返し地点を過ぎて、その先に待つ何かに諦めかけた人たちが観る映画。じわりと。そしてググッと。沸々とした熱さが伝わってくるのが良いのです。

これが北国の人たちの気概なんですかね。
気候が乱れるとき、世も乱れる…なんて耳にしますが、極寒の世界で生きる人たちから見たら「甘いこと言うなよ」と一笑に付されそうです。いやぁ。強い。そして逞しい。

まあ、そんなわけで。
一言でまとめたら“地味”なんですけど、その小さな動きに躍動感を見出すことが出来れば、一生忘れられない物語。開放的な画を描かずに開放感を味わうことが出来る…というのは稀有な体験だと思いますよ。

最後に余談代わりに親の欲目。
確実に子供向けではないのに「面白い」と言えた愚息が誇りです。ぶっちゃけた話、僕が小学生の頃に観ていたら確実に寝ていたと思います。本気で尊敬するよ。
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