ガンビー教授

フレンジーのガンビー教授のレビュー・感想・評価

フレンジー(1972年製作の映画)
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もちろんヒッチコックが一番脂ののっているような時期は過ぎた作品なのだけど、切れ味はしっかりある。主役やその周辺の女優たちにどこかスター性がなく、殺人犯にはどこか人の目を引くようなキャラ立ちがある、という逆転も「らしい」と言えば「らしい」あたりなのだけど、さえない中心人物たちの印象が前に出過ぎると、どこか精彩を欠いた感じもする。

シーン単位で見事と思ったのは殺人犯の部屋に、それとは知らず吸い込まれるように入っていった女性を捉えたカメラが、アパートから退くようにバックしながら階段を下り離れていく、というところ。次第にアパートが面した道路を行きかう人々や車の環境音が大きくなり、部屋の中の物音さえうかがい知ることはできなくなる。そこで何が起きているか見せずに想像させるやり方。
あと、やっぱりトラックの荷台でジャガイモをかき分けながら女性の死体と格闘を演じる場面は白眉で、トレードマークとも言えるダークなユーモア全開。

ラスト、物語に幕を引く素早さに一歳の躊躇がないのも監督らしくて好き。映画は、みんなこういう風に終わってほしいとちょっと思う。

癖の強い母親に対するコンプレックスも監督印ではあるのだけど、台詞で義務的に言及するだけ、というのがちょっと引っかかった。そこまでして作家性を全うしなくていいように思うのだけど。
ガンビー教授

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