zhenli13

天使のzhenli13のレビュー・感想・評価

天使(1937年製作の映画)
3.9
え、ここで終わりなの?と吃驚した。ほとんど会話だけで成立させてる。その会話がとてもとても洗練されていて(日本語訳しかわからないけど)、役者の物腰も衣裳もセットも画質の粗いDVDでも見惚れてしまう。壁一面の大きなタペストリーなどももっと見せてと思ってしまう。
マレーネ・ディートリヒはこのとき36歳くらいなのだけどメルヴィン・ダグラスとのシーンなんか現代の男女だったら40代か50代でもこんな貫禄というか成熟した雰囲気出せないんじゃないかと思う。ディートリヒの顔貌はあの細い弧を描く眉と深く彫られた瞼の窪みの弧が平行に陰影をつくり、目を開くと上瞼につくくらい反りかえったつけまつげがまた深い陰影をつくる。カメラはその陰影と瞳の光をしっかり捉えてて惚れ惚れしてしまう。ハーバート・マーシャルの困惑するアップの表情でも瞳の光を捉えて魅力的に憐れに見せてる。
スミレの花売りのおばあさんの表情と挙動でディートリヒが去るシーンを表すのとか、密会の証拠ともいえる即興曲が漏れ聞こえる受話器のアップとかの見せない演出はさすが。執事たちがパン屑や残った肉から主人たちの挙動の裏を探ろうとするシーンなどはのちの『生きるべきか死ぬべきか』の市井の人々の活写にもつながるのかも。
女一人男二人の構図は、1933年の『生活の設計』では不条理なまでに明るい非道徳の肯定であったが1937年の本作では不実のものとして描かれる。社会的地位のある男にすがらなくては生きられないことの裏づけの行動ではあるものの、完全に開き直る強く美しいディートリヒは最高だし、ルビッチはもしかしたら彼女にヘイズコードへのひそかな反発を託したのかもしれない。
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