継

心の指紋の継のネタバレレビュー・内容・結末

心の指紋(1996年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ロスの大病院からグランドキャニオンの聖なる山へー。目指すはその頂きにある、“あらゆる病を治す” という湖。
末期癌を患う凶悪犯ブルーと、その人質に捕られたエリート医師マイケルの逃亡劇=ロードムービーです。

初めは拳銃に脅されながらも抵抗するマイケルですが、衰弱していくブルーに、同じ年でこの世を去った兄ジミーの姿が次第に重なっていきます。
生命維持装置によって辛うじて生き永らえていたジミーに懇願され、泣く泣くその電源を切った事がトラウマになっているマイケル。癒える事はないと思っていた心の傷は、ブルーとの旅とアリゾナの広大な自然を前にして... 。

マイケル役のウディ・ハレルソンは、特典にあるプロフィールに寄ると “大学時代に父が殺人犯として死刑判決を受け、それまで信仰していた宗教心を失った” とあります。ウィキペディアには “父親はマフィアの殺し屋で二人を殺害し逮捕、ハレルソンは数億を費やし幾人もの弁護士を雇って親父を救おうとした(自身がインタビューで発言)がそれも叶わず、獄中死した” と。

この父親の件はアメリカでは良く知られた話らしく、“エリート白人医師” という、およそイメージとかけ離れたキャスティングは、もしかしたらそれを踏まえたものなのかもしれません。
監督・チミノは、“信仰が無いオマエにはわからないさ” とブルーに罵られ顔を歪めるマイケルに、明らかにハレルソン自身の姿を重ねています。
ブルーとは、マイケルにとっては医学では救えなかった兄ジミーを、そしてハレルソン自身にとっては殺人犯だった父親を、それぞれ投影する人物になっているように思えるのです。

兄の願いを叶えた事で生じたトラウマを、マイケルはブルーの願いを叶える事でそれこそ指紋を拭(ぬぐ)うように消し去ります。

ブルーが聖なる山など実は無いと告白するシーンで、本来なら物語は破綻していますが、でもここからが作り手の腕の見せ所。
現れないハズのものを現し、消えないハズのものを消し去って、
チミノは映画のロマンを観せてくれます。
本作でマイケルを演じる事で、父親を救いたかったハレルソンの思いも晴れたのでは...?
クライマックスの彼の表情を観る度にそう思います。
継