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シェルブールの雨傘のninjiroのレビュー・感想・評価

シェルブールの雨傘(1963年製作の映画)
4.3
思いもかけぬ土砂降りの雨に叩かれて、いつ止むのか、或いはもう永遠に止まないのではと途方に暮れて、心の底から雨傘を必要に思う時がある。
このまま雨に打たれるままに、向かう宛の見当もなく歩くのもいい。しかし思ったよりも雨に濡れた上着は重く、雨の冷たさ無情さをきっと思い知るだろう。踏み出す足は常に溺れたようで、晴れた日の懐かしい思い出ばかりにきっと囚われるだろう。
その胸の思い出は、雨傘の代わりになるだろうか?

燃えるような恋慕の対象のみが安寧の場所ではない。ジュヌヴィエーヴをギイから奪う形となったカサールも、かつて激しく恋をしたローラへの想いが余り、喪失と疼くような痛みと共に無情の雨に打たれていたはずだ。
カサールのジュヌヴィエーヴへの想いを見れば、安易に換えの傘を求めに来た客ではないことは明らかだ。
しかし、カサールとジュヌヴィエーヴの間に芽生える感情は、双方共にとってかつての恋人に向けたものとは異なるものだろう。
人にとって特別な瞬間というものは、逃してしまえばもう二度とは訪れないのかもしれない。
しかしそれで良いのだろう。二度も三度も訪れたとしたら、その喪失の重荷に人はきっと耐えられないだろうから。

愛しい人、命ある限り私は貴方を待っているわ。
愛してる、愛してる、愛してる。
悲しくて泣いているんじゃない。今更あの時ああしていればなんて後悔をしている訳じゃない。あの時の余韻が、時に胸を締め付けるだけだ。
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