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ノルウェイの森のodamakinyanのレビュー・感想・評価

ノルウェイの森(2010年製作の映画)
4.4
アマプラで期限ぎりぎりで視聴。原作ははるか昔の80年代に書店でブームだった頃クリスマス色装丁にだまされて上巻だけ買って斜め読み、ほってあった。しかしそれではいけないと思い図書館で下巻を借りて読んだが やはりよくわからず放置だった。文体にもよるのだろうか、主人公のワタナベくんの華麗なる女性遍歴の話にしか思えず、自分の経験が少なかったせいもあり、世間で一大ブームだった本ということで反感だけが残った。

それが今回映画化されたものを見て、考えが改まった感じ。映画はかなり60年代の背景を忠実に再現していて、ファッションから建物、小物に至るまで時代にそろえている。特に自動車はCGも使っただろうが当時の感じにしてあったのは驚きだった。かなりタイムスリップを味わえました。私が幼稚園の頃の話だから、記憶はおぼろげなのだけど、ああこれあったみたいなものがたくさん出てきました。たとえば最後ワタナベが放浪の時背負うリュック。あれは今のFRPみたいなものじゃなくて当時の感じの布製だ。かなり本気で作っている。

それで話としては原作ではハーレム的に読んだ女性遍歴も、この映画ではかなり納得のいくあらすじだった。また精神を病んで自殺する直子の設定は当時の告白本である「二十歳の原点」や古井由吉さんの「杳子」を思い出した。彼女がワタナベに性的なことを言い募る場面も、当時叫ばれていた性の解放ブームの世相を思い出した。直子はファッションも60年代ヒッピー風にまとめてあって、はつらつとした女性のミドリがレナウンレディ風だったのと対照的だ。いや私も幼稚園児だったからよく知らないのだが、この二つは明らかに異なるファッションリーダーだったはずである。で、そのように演出されている意味も、当時青春だった、私よりも上の世代の方たちにはもっとよく理解できるだろうと思う。

まあそんなわけで私としては幼稚園児が眼鏡で覗いた景色のような映画だったのだが、そんな私にもわかる点は、ワタナベやレイコが現代からその時代の女性たちの苦しみを受け止めようとする使者であったということだ。直子の自殺した元カレは直子とはうまくいかず、他の女性たちと遊んでいた。中盤に出てくるワタナベの先輩の恋人の女性も、自由を謳歌する先輩とは結婚できずに自殺してしまう。そして直子も元カレのように性的に奔放にふるまおうとして、結局その元カレから受けた心の傷を癒すことはできなかった。私にはそんな風に見える。その時代に救うことのできなかった女性たちというテーマで、これは描かれた作品だったのだと思う。
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