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本日休診のakrutmのレビュー・感想・評価

本日休診(1952年製作の映画)
4.6
終戦直後の東京を舞台に、休診日にもかかわらずひっきりなしに診療の依頼が入る(今では医者の過重労働と言われてしまうような状態の)三雲医院の大先生の奮闘と、そこに暮らす人たちのふれあいを喜劇風に描いた、渋谷実監督の人情ドラマ映画。

井伏鱒二の同名小説である『本日休診』を原作として、そこに同じく井伏鱒二の短編小説『遥拝隊長』の主人公である復員してから精神に異常をきたしてしまった元中尉をマージして、斎藤良輔が脚本化している。なので、映画の前半はタイトル通りに大先生が忙しく駆け回る休診日の出来事を描いているが、後半はその休診日以降の日常を描いている。

渋谷実監督の得意とする人情喜劇の代表作と言える作品。レイプ、戦争によるPTSD、貧困など、けっこう深刻なテーマを扱っているにも関わらず、大先生の三雲八春の持ち前の明るさと思いやりで皆んなにささやかでも幸せをもたらしていく姿にほろっとさせられる。そして、この大先生を演じた柳永二郎の演技がとても味わい深くて良い。柳永二郎は新派の劇団俳優であるが、戦後は映画やテレビドラマへの出演を増やしていて、その中でも本作は彼の代表作と言える。

多くの俳優たちが出演していて、その皆んなが映画に上手く絡んでいるのも特徴的。田村秋子(大先生の最初の患者・三千代)、長岡輝子(婆や)、十朱久雄(街のお巡りさん)、望月優子(レイプ犯の妻)、中村伸郎(お町の兄)など劇団俳優が脇を固める中で、淡島千景(お町)、鶴田浩二(お町と恋仲のヤクザ)、三國連太郎(婆やの息子で元中尉)、佐田啓二(三千代の息子)、岸恵子(三雲医院の看護婦)など、当時の新人俳優たちがずらりと共演しているのは圧巻。その中でも三國連太郎の存在感は出色。岸恵子がぴちぴちしていて可愛い。
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