がぶりえる

ヤンヤン 夏の想い出のがぶりえるのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
5.0
人生は巡る。

まずやっぱり、内容なんて語らなくて良いくらい映像が良い。全てを包み込むような優しさがあって、本当にいつまでも見てられる。映画館で35mmフィルム上映で見たので、よりノスタルジーを感じられて良かった。ヤン作品は配信でもあんまりないし、そもそも寡作な人だから映画館で体験できたのは貴重だった。

本作を見て誰もが思うであろうことは「ヤンヤンほとんど出てこないじゃん!」ってこと。出演シーンは凄く少ない。ヤンヤンの話と言うより、ヤンヤンを取り巻く周囲の人々の人生の喜怒哀楽・紆余曲折を描きながら、所々にヤンヤンの視点を入れてくる感じ。でもヤンヤンの愛らしさは本作を見た誰もが虜になるだろう。同い年の子達とはちょっと雰囲気の違う自由奔放で活発な男の子。彼の行動すべてが愛おしさに溢れてて、すぐに「はやくヤンヤン映らないかなぁ」と思ってしまう。でも時に、ヤンヤンの純粋さが思わぬ棘となって大人の心を突き刺したりする。おばあちゃんやNJに対して純粋な気持ちで酷な質問を投げ掛ける。そこで気付いたのは、ヤンヤンが大人の社会を捉える視点はエドワードヤンの作家性そのものに通ずるものだということ。いつも包み込む様な優しい映像で痛烈なテーマを突き付けてくるエドワードヤンの語り口は、時に癒やしで時に残酷な、子供的な純粋さの感覚に凄く似ていることに気付いた。(この気付きに1人で興奮した笑)

本作の主軸にあるのは「恋愛と人生と運命」みたいな感じだろうか。主要キャラクター達は皆別々の年齢でそれぞれの恋愛をしている。ヤンヤンの初恋、ティンティンの青年期の友人関係の絡んだ複雑な恋愛、NJの青春を取り戻そうとする熟年期の大人の恋愛、新婚のアディ...他にもまだまだあった。年齢も境遇も異なる恋愛を切り取って描いているが、それら全てを俯瞰で見た時、「人生」という普遍的な一本のストーリーの全体像が浮かび上がってくる。雷に打たれた様に恋に落ちて、時に失恋したりして、その後運命の人を見つけて結婚するけど、昔の恋に未練が残ったままだったりして、それを取り戻そうと同じ過ちを繰り返す...。人生ってそういうジレンマと戦いながら同じ事を繰り返してる。全員が人生の中で一度は同じ壁に打ちあって、色んなもがき方があるけど、その後も結局同じ道を辿る。そういう巡り巡っていく人生のサイクルこそが「運命」の正体。

でも本作は人生の虚しさとか儚さを嘆いた作品ではないと思う。むしろその逆。エドワードヤンが『ヤンヤン夏の思い出』の原題『a one & a two』について「人生で起きるいくつかのことは、数字の1+2と同じくらいとても簡単である」と語っているらしい。それでこの映画のやりたいことがなんとなく見えてきた。人生はなるようになるだけで、あとはそれをどう受け止めて生きていくかだけ、って事なんじゃないかな。運命というのは巡り巡ってくるもので、もうすでに結論はそこにあるのだがら、単純に受け止めればいいだけの事であって、その後、どう生きていくかを考える事が何より大事。ってことなのかなぁ。

とまあ、見終わって余韻に浸ってたら色んな感情が溢れて感想が止まらない(このレビュー書くのに計1時間くらい使っている!)。初めてかも、感想が溢れすぎて眠れなかったのは。ホント良い映画に出会えた。シアワセ。エドワードヤンという素晴らしい監督に出会えことも本当にシアワセ。(嬉)。