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ヤンヤン 夏の想い出のslowのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
5.0
もう何日も、譜めくりをするように記憶に残る声に耳を傾け、眠れない夜を過ごしている。耳がいいわね、と褒めてくれたあなたの手を握っているようなこの感覚は、ありがたいことに、変わらずあたたかい。ある夜、昨日と今日がそっくりなのは、わたしたち一人一人が間違えのないように生きているからよ、と母が弟の問いをはぐらかすように寝かしつけていたこと。ある朝、お気に入りの服が着られなくなる日のことを、考えたことがあるかい、と父が少し寂しそうに不機嫌なわたしに言ったこと。探してもいないものが突然現れるわけじゃない。いつかの探しものが痺れを切らしているのだろう。クラシックという価値観に適わなかった、忘れず大切にされるべきものが、わたしの中には多く眠っている。近くて浅い夏の出口のような夜にひとつ、またひとつ、それをめくり、わたしはやっと、肩書きのいらない束の間の眠りにつける。

エドワード・ヤンは、些細な出来事や突発的に起こる事件、その綻びの始まりを突き止められたところで、人はそう簡単に繕うことなどできないのだと言っている。しかし、発見することは人の使命なのだとも言っている。人は答えを欲しがるけれど、問答ではないこと、わたしたちにはエピソードを語る必要が、圧倒的に足りていないのかもしれない。
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