TakahisaHarada

オアシスのTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

オアシス(2002年製作の映画)
4.2
社会不適合な前科者のジョンドゥと脳性麻痺で身体が不自由なコンジュ、社会的弱者2人の美しい絆を描いた作品。
序盤、勝手に豆腐を食べるジョンドゥを咎めず牛乳まで恵んだ店主のように、多くの人にとって情けをかけることはあっても深く知ろうとは思わない人々に光を当てた作品というところがとても良かった。

良くも悪くも何をしでかすか想像のつかないジョンドゥに振り回される序盤・中盤、2人の関係が周囲に知られ一気に動き出す終盤と最後まで緊張感の絶えない作品だったなと思う。
観ながら思い浮かべていたのは気付いたら刑事よりも殺し屋に感情移入してしまう「レオン」で、この作品も社会的にまともな人物よりそうでない人物たちの方に感情移入してしまう作品なのかな、と思っていた。なので終盤になって「そもそもまともなのはどっち?」という反転が起こるのには驚いた。

コンジュ兄夫婦ははじめから障害者の妹を都合良く利用していて面倒も見ない、その間何をしているかというと単に時間を浪費しているだけという様子が描かれていて、下衆だなあという印象。
一方でジョンドゥの家族(特に兄)の方はなかなか社会に適応できないジョンドゥに迷惑を掛けられつつも完全に見捨てることはせずサポートする様子もあって、もう少し同情を寄せつつ見ていた。それだけにジョンドゥの替玉が分かる警察署の3兄弟のシーンは衝撃。事実を知ると明らかに歓迎してないし謝罪も何もなかったジョンドゥ出所後のシーン(そもそも逃げるように引っ越してた)の見方が変わるし、兄の「大人になれ」「行動に責任を持て」という言葉を思い出してお前が言うなという気持ちになる。

どちらの家族の場合も見せかけの兄弟愛でコンジュ、ジョンドゥを都合良く利用しているところが特にまともじゃないなと感じた。
見せかけの兄弟愛だからコンジュ、ジョンドゥのことを深く知ろうとしないし、2人の絆に誰も気付かないのも残念。警察署でコンジュがロッカーに体当たりして必死に訴えても癇癪ぐらいにしか思われず誰も話を聞こうとしないシーンは歯痒いけれど、仮にコンジュの口から事実を伝えたとしても示談のことしか考えてないような兄夫婦はジョンドゥに脅されたんだろとか片付けてまともに取り合わないだろうなと思った。

脳性麻痺を患うコンジュの存在が現実的だと思えるのもすごく良かった。ムン・ソリの芝居は、「博士と彼女のセオリー」とか同じく難しい役柄を演じた芝居と比べても特にすごいと感じたし、それだけにコンジュが見る世界を描いた映画的なシーン(電車内、電話、駅のホーム)が印象に残る。
日々好奇の目とか同情との付き合い方に苦労してるであろう彼女が、純粋に彼女への興味からフラットに接してくるジョンドゥに惹かれるというのも良かった。「最強のふたり」とかでも見た関係性。

「羊の木」や「すばらしき世界」でも描かれていたように、周囲に許され関わりを持てた出所者は立ち直り更生することができた。ジョンドゥにとってコンジュとの交流は立ち直りへの第一歩だったのかなと思う(結果的に破綻してしまったけど)。
コンジュ兄夫婦が部屋に入ってきて2人を見つけるシーンの迫真っぷりとか、ロミジュリのバルコニーシーンかのような2人のラストもすごく印象に残った。