こたつむり

百万円と苦虫女のこたつむりのレビュー・感想・評価

百万円と苦虫女(2008年製作の映画)
3.9
♪ バラバラかけらを集める僕を見ては
  泣きじゃくる君を抱きしめられない
  そんな僕だ

蒼井優さんは魔性の女。
そんなあだ名に説得力を与えてしまったのが、彼女の演技力。本作なんて、彼女に始まり彼女で終わる物語ですからね。蒼井優さんがいなければ成り立たない作品です。

端的に言えば、ある女性の成長譚。
だから、主人公が成長したことを感じさせれば傑作に値するのですが…うん。それは確実に傑作と断言できます。あの“表情”を観れば一発です。

仕上げたのはタナダユキ監督。
同性だから変なフィルターが無いのも良かったと思います。語弊がある表現かもしれませんが、彼女の“無防備”な状態を引き出しているんですよね。

だから、海の家でバイトしていたら声を掛けたくなるし、畳の上にゴロッと転がっていたら惚れてしまうわけで。その感情に嘘が無いので、物語としてリアリティが生まれるのです。これを引き出すのは男性では無理ですね。

そして、それと対比する“棘”が弟の存在。
今どきにしては"あからさま"と思えるイジメの場面を入れることで、淡々とした風景に“違和感”を与え、弛緩した雰囲気に陥らないようになっているのです。

いやぁ。このバランスは見事ですよ。
個人的に映画の賞には興味が無いのですが、本作に限れば話は別。タナダユキ監督が日本映画監督協会新人賞を授与されたのも納得です。

特に見事なのが“重要ではない部分”を削っている点。例えば、百万円の貯まるスピードなんてツッコミどころ満載ですが、そこに拘っていたら本作は成立しませんからね。大切なのは“物語としての”スピードなのです。

まあ、そんなわけで。
悩める子羊に向けた、ひとつの回答。
逃げた先には何もない、だけども逃げることで何かが生まれるかもしれない…そんな希望が人を成長させる…と感じさせてくれた素敵な物語でした。必見です。
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