ninjiro

Endless Waltz エンドレス・ワルツのninjiroのレビュー・感想・評価

3.6
速度が問題なのだ。
人生の絶対量は、細く長くか、太く短くか。
何れにしても使い切って仕舞えば、
死ぬより他にない。


広田玲央名(現:広田レオナ)が情念の作家・鈴木いづみを、町田町蔵(現:町田康)が夭折の天才サックスプレイヤー・阿部薫をそれぞれ演じる。
鈴木いづみは、個人的には本来昭和の煤けた匂いを全身に纏いながらもそれに静かに抵抗するアンニュイな女性といったイメージだが、広田が演じるそれはバタ臭さ全開の不思議ちゃんである。
しかし、その過剰に豊満なボディにほだされてか、いつしかそんな疵は気にならなくなる程のパワープレイ。
阿部薫は、これも完全に個人的にはという但し書き付きだが、昭和の匂いと日本人の和の心、所謂「幽玄」をジャズのフォーマットにもロクに乗せずに命の残り火を乱暴に吹き散らかして生きた男というイメージだが、そんな生き様に町田町蔵のギラギラした眼と当時の町田自身の曰く「パンク歌手」として培った飼い慣らされぬ狂気は上手くシンクロして吉。しかし当て振りのサックスプレイの嘘臭さは誰かのちょっとした指導で何とかなったのではないか。
また本作には阿部薫と親交のあった灰野敬二が本人役で出演。阿部についての思い出をセミドキュメンタリー的にだが雄弁に語る場面も。
「不失者」としてのキレキレの演奏シーンの他、町田町蔵と二人で並んで擬似セッションを行う際に同じ画面に収まる様は、お好きな人にはお宝だろう。
其処彼処に覗く若松節。
ちなみに私はお好きな人である。

ストーリーは至極シンプルに、男女がふと出逢い、惹かれあい、愛し合う物語。

しかしその周辺には、ランボオの詩の一節と、劇中語られはしないが阿部薫自身の遺したアルバムタイトル「なしくずしの死」が匂わすセリーヌの同名作が纏うような、生と死の狭間の切迫感が横溢している。

孤高の魂。

その触れ合いは、狂気のセッション。
狂気は定められた規範の中では共存し得ない。
あらゆるコントロールの中で狂気は抑制される。
規範の外にはみ出ようとの狂気の覚醒は、
身を削り、心を殺し、他者の生き方を抑圧する。

二度と再現し得ない音の中で生きる男。
文字を紙に印字し永劫に残し続ける女。

引き戻しが効かない事を知りながら、
微かな希望への渇望が明るい将来を物語る海辺。
頼りない笑顔と荒い波とのコントラスト。
たった三年の結婚生活がもたらしたのは、新しい命と破滅への片道切符。
その行き先を知りながら特急列車に乗り込んだ者は、例え途中下車したとしても終着駅の景色からは逃れられない。

ワルツは鳴り止まない。
例え離れても、まだその手は温もりを感じたままに。
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