TakahisaHarada

シークレット・サンシャインのTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

3.8
夫、息子を順に失い、人生に絶望したシネにとって何が救済になるのかを描いた作品。
引っ越してきた密陽に溶け込もうと健気に振る舞いつつも少し見栄を張ってしまうシネのキャラクターがとても身近に感じられるし、事件後彼女が啓発と幻滅を繰り返していく様がとてもリアルだなと感じた。

イ・チャンドンなので息子ジュンの誘拐事件だけで終わる作品ではないだろうなと思って観ていたけど、事件があまりにあっけなく終わってしまったのでこの後どうなるんだろう…と率直に思ってしまった。実際にはそこから先が主題という感じだった。

シネという女性の人生や世界に対する見方が悲観から楽観へ向かっているのか(啓発)、楽観から悲観へ向かっているのか(幻滅)が伝わってくるチョン・ドヨンの芝居がすごかった。
火葬場のシーン、面会のシーンと、強烈な幻滅を感じさせるシーンでは涙もなく魂が抜けたような様子だったのがとても印象的。火葬場で言った「殺しても飽き足りないのに、引き裂いてやりたいのに、体が動かなかった」という言葉も印象に残る。

後半の宗教の話は、宗教を「恐怖ビジネス」と皮肉った「PK」なんかとはまた違った角度で刺さるような内容だった。
一度は信仰に救われ、「心の安定と新しい命を得た」と言っていたシネだけど、それは犯人にとっても同じで、シネが彼を許す前に神が彼を許してしまうという矛盾…。

色々な作品でソン・ガンホを見た中で、本作は間違いなくベスト級に良いキャラクターだったなあと思う。かっこいいヒーローとは程遠いけど、いつもそばにいてシネを温かく見守る「秘密の陽射し」。
シネ弟にきついことを言われてもめげない、仲間たちにバカにされてもシネと一緒に駅前で讃美歌を歌うのがとても良い。

宗教はシネにとって陽射しにならなかったけど、キム社長は陽射しなんだということに気付くラストだとしたら救いがあるなと思うけどどうなんだろう(犯人の娘を許せず店を飛び出してしまい、彼女にとっての救済はまだまだ道半ばではあるけれど…)。面会後倒れたシネが寝ている病室で、キム社長が彼女に顔を寄せるシーンがあって、そのとき彼女は寝ていなかった(目を開けた)様子が描かれてる。彼女も少しずつ気付き始めているシーンだったのかなと思った。