綾

THE WAVE ウェイヴの綾のレビュー・感想・評価

THE WAVE ウェイヴ(2008年製作の映画)
5.0
すごくよくできていて、しっかり面白かった。実話ベースだということに驚く。本当にこれ一本で全体主義、ファシズムとは何か説明されるね…

ファシズムやナチズムと聞くと、思考の停止とか洗脳とか人間の弱さとかを咄嗟に思い浮かべるけれど、そうか、みんなに「居場所が与えられる」という側面もあるのか…… とやるせない気持ちになった。そんなの(この形容で合っているのかわからないけれど)切なすぎる。

彼が “主人公” なのかもしれない、と思いながら見守っていたので、悲しい納得感に打ちのめされるラストだった。

『ジェインオースティンの読書会』という小説に、人はみんなその価値以上に愛されるべきだ、という言葉があるのだけど、本当にその通りだと改めて。世の中はあまりに愛が不足している。

誰も一人では生きていけないし、「私はここに居ていいんだ」という安心感がどんなものなのか、私も知っているから。どうしようもない気持ちになる。そしてみんな誰かに強く指示されたいという欲求を隠し持っているのもわかる。決断というのは誰にとっても苦しいもの。

それからラスト、先生を批難するみんなの目を見て、ああ、戦後のドイツ国民もこんな目でヒトラーやSS高官を見たんじゃないかな… と思った。そうすることで罪の意識を彼らに押し付けたんじゃないやろうか。なんだか本作を観ていると、みんながヒトラーを「ヒトラーに仕立て上げた」面ってどれほどあるのだろうとぼんやり思った。

ファシズムの恐ろしさはこの映画にはっきり示されるけれど、かといって民主主義も “消去法” でしかないよね… 人間社会って難しい…

ポスターから勝手にイメージしていた〈絶対的な力を持った一人がみんなをマインドコントロールで従わせる〉という図式ではなく、一人一人の構成員が、それぞれの役割をもってこの異様な世界をつくりあげていた。

モナのような人はきっと早くに国外へ脱出・亡命したのだろうし、途中でおかしいと気がついた人たちは捕らえられて収容所に入れられたはず。じゃあ、どうすればいいんだろう、と頭を抱える。

フランク・パヴロフの『茶色の朝』とかも重なる気がするな…

日本でももっと観られるべき作品だと思う。
綾