Tラモーン

ヒストリー・オブ・バイオレンスのTラモーンのレビュー・感想・評価

4.2
2024年まだ芯食ったの観てないな〜と思って前から期待のコチラをチョイス。


田舎町でダイナーを営むトム(ヴィゴ・モーテンセン)は弁護士の妻エディ(マリア・ベロ)、高校生の息子ジャック(アシュトン・ホームズ)、幼い娘のサラ(ハイディ・ヘイズ)に囲まれ慎ましく平和に暮らしていた。ある日ダイナーに現れた強盗を驚異的な身のこなしで返り討ちにしたトムは一躍時の人に。しかしそれをきっかけにトムの血塗られた過去が明らかになっていく。


めちゃくちゃ良かった!
クローネンバーグ×ヴィゴの『イースタン・プロミス』がめちゃくちゃ名作だったので期待してたけどそれを上回る作品だった。

冒頭の静かで平和な暮らしを営む幸せな家族の日常から、徐々に不穏な雰囲気となりラストシーンの胸の詰まるような空気への変貌ぶりはまるで別の作品のよう。
同じく優しい父親・夫であるトムの顔と、殺人者としての顔つきがまったく違っていて、さすがヴィゴとしかいいようがない。

"こんな幸運な男はいない"
"あなたが最高だからよ"

子ども2人に恵まれ、妻とも愛し合っているトムは理想的な夫であり父親にしか見えない。ダイナーの主人としても優しく、勤勉で街の人からも好かれている。そんな前半のヴィゴの表情が本当に柔和なんだよ。
強盗に襲われるシーンでもあまりに表情が優しいので心配になるくらい。

強盗撃退によりTVのリポーターに追い回されている最中も戸惑っているようだったがその表情はだんだんと恐怖と不安の色へ。その感情が家族へ伝染していく描写もまたずっしりと生々しい。
特に大人しかったジャックが同級生に暴力を振るうシーンはハラハラと不安を煽る。

"物事の解決に人を殴るな"
"人を撃てばいい?"

そして過去に遺恨のあったマフィアのフォガティ(エド・ハリス)が訪ねてくる決定的なシーン。

"殺しておけばよかった"

事の直後、ゆっくりと息子に近寄るトムの表情はそれまでと完全に別人のようだった。自分の過去と、息子への愛情と、自分自身でもどうすればいいのかわからなくなったようなあの表情が忘れられない。

壊れていく家族と離してくれない過去。
やり直すため、全てを清算するため男は1100キロの道のりをノンストップで車を飛ばす。

そして過去の自分と訣別し帰宅したトムを待っていたものは。
もう…サラちゃんとジャックが本当に愛おしい。どんな過去があろうと子どもたちにとってはやはり父親なんだろうと思いたい。そしてラストシーンのトムとエディの顔を上げた表情。全てを語らないエンディングが胸を締め付ける。完璧。


クローネンバーグらしい鮮烈で生々しい暴力描写や、中盤の階段でのラブシーンなんかを見るに、誤解を恐れずに言えばある種とても男性的というか野生的な愛情の形を伝えようとした作品なのかなという気がした。
暴力は暴力なんだけど、その必要性というか(肯定とは違うと思う)愛情とないまぜになった言葉にできない人間の感情を生々しく描いていると思う。
愛と暴力は意外と近いところにあるのかも。

そして人間は変わることができるのだと、過去を問うなと。上手く書けないけど、そのあたりもクローネンバーグの男性性を感じたなぁ。
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