りっく

奇跡のりっくのレビュー・感想・評価

奇跡(2011年製作の映画)
3.7
これほど子供に寄り掛かった映画も珍しい。
大まかなストーリーラインはあるが、物語を進行することよりも、子供たちの世界を描くことに専念している。

映画で子供を描く際には、意図していなくてもステレオタイプに陥りがちである。
子役に演技をさせ、台詞を喋らせる。
その受動的な感じが、子役からどことなく見て取れることも少なくない。

それに比べ本作はどうであろう。
子供たちが実に能動的に動き回っている。
そこに映し出されるのは“子役”ではなく、“子供”の素の部分である。
一瞬一瞬の子供たちの反応や、その場の雰囲気を大切にカメラに収めようとしている作り手の心遣いが伝わってくるのである。

そこで息づく子供たちは、話し方も、走り方も、笑い方も、1人1人違う。
台詞だってそうである。
台本通りなのか、それともアドリブなのか分からない子供たちの会話。
その内容も、たまに的を射るようなことを言うのだから面白い。

性格も同様である。
子供が100%無垢で無知な存在であるはずがない。
愛くるしさと共に、どこか憎めないずる賢さや図々しさを兼ね備えた子供たちは非常に魅力的だ。

そんな子供たちの中でも“まえだまえだ”の2人がやはり光っている。
長男の逞しさを背中で見せる兄貴、笑うたびに、まだ生え変わっていない歯を見せる無邪気な弟。
大人の都合で引き裂かれた2人は、決して悲観することなく生きている。
その2人が共通の目的を達成させるために顔を合わせる。

奇跡が起きたか起きなかったかが問題ではない。
この2人の兄弟が再会したという事実、そして彼らなりに現実と折り合いをつけるという行為、これはまさに成長の物語である。

“可愛い子には旅をさせよ”という言葉がある。
皆で知恵を絞って計画を立て、それを実現すること。
その中に大人は必要ない。
大人は手助けはするが、指図することは一切ない。

子供たちが自分たちの力で何かを成し遂げるという瞬間こそが、この作品のクライマックスなのである。
りっく

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