こたつむり

コレクターのこたつむりのレビュー・感想・評価

コレクター(1965年製作の映画)
3.5
ひらひらと舞う蝶を捕まえて。
ビンの中に入れて、うふうふうふふふふふふふふと微笑む物語。うふふふ。

じわりじわりと怖くなる佳作でした。
あらすじとしては…大金を手に入れた若者が人里離れた屋敷を購入し、女性を攫ってきて監禁する…という物語。いわゆる“誘拐監禁物”。邦画『完全なる飼育』の原点になるのでしょうかね。

だから、物語の着地点がどの形であろうと。
そこに存在するのは妄執に囚われた恐怖。
この地味ながらも、じわりと臓腑を締め付けるような感覚を描き出したのは『ローマの休日』のウィリアム・ワイラー監督。さすが、歴史に名を残す監督であります。

ただ、1965年の作品ですからね。
エロやらグロやらの刺激的な映像はありません。また、背後に流れる音楽もやたらと牧歌的です。しかも、誘拐犯である主人公が紳士然としていますからね。まるで誘拐犯を肯定している作品だと錯覚してしまいそうです。

でも、“だからこそ”怖いのですね。
“優しさ”の裏側にある狂気が滲み出る瞬間、思わず鳥肌が立ってしまうのです。そして、その狂気を巧みに演じたのがテレンス・スタンプ。表情だけで全てを語れるのが凄いですね。冒頭で地下室を見つけたときの顔は必見。あの1カットで物語の方向性を指し示していますからね。

また、彼の歪んだ愛情を。
全面的に否定できないのも怖いところ。
「心配だから」とか「君のためを思って」とか言いながら、誰かを拘束することはよくある話。本当に主人公と自分に大きな違いがある…なんて断言できるでしょうか。考えれば考えるほど、嫌な気分になる作品です。

まあ、そんなわけで。
じんわりと足元を徘徊する狂気を是非とも…。

最後に余談として。
タイトルの『コレクター』は主人公が昆虫採集を趣味としているから…なのですが、公開当時、昆虫採集を趣味としている人は文句を言わなかったのでしょうか。作品のテーマに絡んでいるとは言え、少々偏見を助長しそうなタイトルです。

そもそも、何かを収集するのは誰にでもある話。それが、時計だろうと、フィギュアだろうと、稀少本だろうと…人様に迷惑を掛けなければ良いのです。たとえ、自分の切った爪をビンの中に集めていても…。
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