GreenT

ナチュラル・ボーン・キラーズのGreenTのレビュー・感想・評価

4.0
これって社会派の映画だったのね。私は間違いなく「ミッキー・マロリー、がんばれ~♡」と言っていたアホな若者の一人に過ぎませんでした。

だって冒頭のマロリー、カッコ良すぎるもん!このマロリーのファイト・シーンを見て「そっか!殴る勇気も必要だけど、殴られる勇気があれば、ケンカができるんだ!」と思った。「これでもアタシをセクシーだと思う?!は~!?」ってセクハラ男をボコボコにするところは、溜飲が下がりました。これぞガールパワーだよ!

しかもそんなマロリーを可愛らしいと思うミッキー。「いいんだ、こんな女の子でも乙女でいいんだ!」ってこの描写は私たちのようなおてんば娘たちを勇気づけましたよ。

私にとってはそれ以上もそれ以下もない映画だったのですが、今回観てみたら、ま~オリバー・ストーンはものすごい量の社会批判を盛り込んでましたね。それをタランティーノは気に入らなかったのかもな。

ミッキーとマロリーは人を殺すことを何とも思わないサイコパスなのですが、子供のころの虐待がその根底にあるのでは?そして暴力をエンターテインメントとして売るメディア、それに踊らされる大衆。警察でさえ、犯罪者の話を売ってお金儲けをし、刑務所はもはや受刑者を「更生」させる施設ではない。

マロリーに性的な執着を持つ刑事・スカグネッティがミッキーとマロリーが収監される刑務所を訪ね、刑務所長のドゥワイトが、刑務所の一番端っこに収監されているマロリーの独房に連れて行くまでの道のりがすっげー長いのですが、そこでのスカグネッティとドゥワイトのダイアローグにこの映画の意義が集約されていると思いました。それと同時に、囚人たちが不当に扱われる様子を背景にしているので情報量がすごく多く、一回では咀嚼できなくて4回くらい巻き戻してしまいました。

ミッキーとマロリーがインディアンのおじいさんに助けられるところも、象徴的なシーンでしたね。毒ヘビだと知っていて助けたんだろ、なぜ自分のことは噛まないと思ったのだ?毒ヘビに「いい人」と「悪い人」なんて区別はないんだよ、という。ミッキーもこのおじいさんを殺したことを後悔しているのだけど、そう思っても止められない。後のインタビューを見ると、「I'm a natural born killer....」って言ったとき、囚人たちがザワザワし始めるんだけど、これは「人間はバイオレントな本能を持っている。殺人者になる人たちは、子供のころの虐待や社会的に蔑まれることでこの本能を目覚めさせ、Demonと化していく・・・・」って言うことを示唆しているのかなって思った。

ウェイン・ゲイルの番組「アメリカン・マニアックス」ですか、あれって、私がアメリカ来たのってこの映画が出るちょっと前くらいなんですけど、「アメリカって、犯罪番組多いなー」って思ったんですよね。あの、「ばっどぼ~い、ばっどぼ~い」ってレゲエ調の曲でお馴染みの、警察潜入もの、あるじゃないですか?あーいうの。でも今、振り返ってみると、『60ミニッツ』とかもジャーナリズムを気取っているけど、えげつない覗き趣味的な感じもする。人間の暴力的な本能を刺激することで金を儲けようとするメディアが、結局は暴力を助長していることを示唆しているのかな?

ウェイン・ゲイルを演じるロバート・ダウニー・Jr.なんですけど、私は苦手なんですよ。ゲスな感じが出ていて上手いのかもしれませんが、ちょっとこの人オーバーアクトよね。ウェイン・ゲイル役にはスティーブ・ブシェミとティム・ロスも候補に挙がっていたんですけど、タランティーノに、「この映画に出たら、今後一切俺の映画には配役しない!」と言われて降りたそうです。まあオリバー・ストーンの大作だったら、ロバダウの方がハマっているかもね。

ミッキーを演じるウッディ・ハレルソンは、この前はTVショウ『チアーズ!』での愛されバーテンダー役以外ではパッとしなかった人なのですが、ストーン監督に「君は目がイカレてる」とこの役に抜擢されたらしい。元々はマイケル・マドセンがミッキー役だったのだけど、あまりに怖いのでワーナーがダメ出ししたのだとか。結果的にこれはウディ・ハレルソンの出世作になりましたよね。

私にとってはマロリー役のジュリエット・ルイスがぶっ飛んでて大好きなんですけど、この人、これ以降なんかパッとしなかったじゃないですか?調べてみたら、なんかバンドやってたのね。ちゅ~ぶで見られますが、結構カッコいいんだよ。LA生まれで、親が俳優で、ハイスクール・ドロップアウトって、ぶっ飛びキャラの下地はしっかりあったんですね。LAの人ってイカレてるってステレオタイプがアメリカにはあるんですが、この人がまさに「LAの女の子」って感じしましたね。

今観ると、ミッキーとマロリーが満天の星の下でヤクを決めて、天使がどーとか言ってるところとか、砂漠でマッシュルーム食って、顔がひん曲がる描写があるじゃないですか?あのあとゲロ吐いてっけど、あれもマッシュルームでラリっている描写だと思うのですが、ちょっとやっぱ60年代引きずってるなあって思った。タランティーノは多分、世代的にもう「60年代のセンチメンタル」を疎ましく思っていて、オリバー・ストーンの『ナチュラル・ボーン・キラーズ』の解釈が気に入らなかったのはわかる。なんかお堅いもんね。自分の書いた作文を、お父さんに直されたような感じ。
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