サマセット7

ヒートのサマセット7のレビュー・感想・評価

ヒート(1995年製作の映画)
4.4
監督・脚本は「インサイダー」「コラテラル」のマイケル・マン。
主演は「ゴッドファーザー」シリーズ、「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」のアル・パチーノと、「ゴッドファーザーPART2」「タクシードライバー」のロバート・デ・ニーロ。

[あらすじ]
アメリカ・ロサンゼルスにて、軍隊のような連携で鮮やかに仕事をこなす強盗団。率いるは、プロ中のプロの犯罪者ニール・マッコーリー(ロバート・デ・ニーロ)。
しかし新参者が警備員を殺してしまったことから、強盗殺人課の敏腕警部補ヴィンセント・ハナ(アル・パチーノ)が事件を担当することとなり、事件は彼の執拗な捜査の対象となる。
追うものと追われるもの。2人のプロの対決の時は、徐々に近づいていた…。

[情報]
1974年の「ゴッドファーザーPART2」で共演したものの、作中の時系列の関係上同一シーンで共演したことのなかったロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが、実質的に初めて共演した、1995年公開の犯罪サスペンス映画。
原型はマイケル・マン監督のTV映画「メイドインLA」。

マイケル・マン監督は、1984年のテレビドラマ「マイアミバイス」のエグゼクティブプロデューサーとして名声をあげ、ラストモヒカン、今作、アカデミー賞作品賞受賞のインサイダーで評価を確立させた。
銃器の扱いをはじめとするリアルな犯罪のディテールの描写を特徴とする。
今作でも、俳優は、実弾での銃器の取り扱いの訓練を受けて撮影に臨んだ。

今作の脚本は、マイケル・マン自身が実在の刑事に対して行なったインタビューが元になっている、とされている。

今作の宣伝にあたっては、二大名優の共演と、ロス市街における7分間にわたる史上空前の銃撃戦が大々的に喧伝され、公開前から大きな注目を集めた。
銃撃戦での音声は、実際に銃(空砲)を使用した音声をそのまま使用している、とされる。

今作は、6000万ドルの予算で作られ、1億8000万ドルを超えるヒットとなった。
一部の批評家やクリエイターから熱烈な評価を得ており、現在では、90年代クライムアクションの金字塔との評価を得ている作品である。

[見どころ]
マイケル・マン監督がリアルに、かつ、重層的に描く、追う者、追われる者、とその周りの人間たちの人間ドラマ!
ドラマを際立たせる演出!
強盗に身をやつす、アウトローたちのそれぞれの悲哀!
アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ヴァル・キルマー、トム・サイズモア、ダニー・トレホ、エイミー・ブレデマンといった俳優陣の味わい深い演技!!
犯罪のプロの手による流れるような強盗描写と、それを警察が追い詰める緊迫感!!!
そのディテール!!
撃つべき時は躊躇なく、冷徹に撃つ!!
物音ひとつ立ててはならぬ、張り込み!!
相手の裏をかく心理の読み合い!!
そして、映画史上に残る、銃撃戦!!!
2人の孤独なプロの対峙と理解、その結末…!!

[感想]
公開当時、劇場で観た覚えがある。
二大俳優の共演と映画史上最大の銃撃戦!!の宣伝に、ワクワクして劇場に行った。
しかし、2時間50分の上映時間のうち銃撃戦のシーンは7分で、時間の多くを人間ドラマに費やしたことに拍子抜けした覚えがある。
とはいえ、捜査側のアル・パチーノと強盗側のデ・ニーロの心理戦にはそれなりにドキドキし、全体としてはそれなりに楽しんだ、という感想だったろうか。
当時の私には、前年公開のキアヌ・リーブスのスピードの方が刺激にあふれ面白く思えた。

恐ろしいことに、公開から27年も経ってしまった。
その間に、私の映画の見方も随分変わった。
久々に再鑑賞した感想は、こんなにも、豊かな人間ドラマを描いた作品だったか!!というものだ。
今では、マイケル・マン監督(当時は監督の名前にも興味はなかった)が、何を考えて今作を作ったか、も多少は分かる気がする。

何しろ、ディテールの描写が細やかな映画だ。
マイケル・マンは、派手な演出を控えて、ひたすらディテールを積み上げる。
渋い!渋すぎる!!
にもかかわらず、地味な印象が一切ないのは、ロス市街のロケを多用した映像の迫力に加えて、キャストの力が大きい。
アル・パチーノとロバート・デ・ニーロの死力を尽くした追いかけっこが、ゴージャスにならないはずがない。

クリストファー・ノーランが「ダークナイト」の冒頭の参考にしたという、今作冒頭の強盗シーン。
まるで海兵隊のように訓練された強盗団の動き!!
ほぼセリフなしに、彼らが「プロ」であることを鮮やかに描き出す。

他方、現場に臨場した、アル・パチーノのカリスマ!!
残された現場の様子から、的確にプロの犯行であることを見抜いていく。

ここまでで観客は、追うもの、追われるもののそれぞれのプロの仕事の鮮やかさを、十二分に感じることができる。

その後は、緊迫した犯罪と捜査のパートと、それぞれのプロたちの充実しているとは言い難い私生活のパートが、交互に描かれていく。

私生活のパートで描かれるのは、「仕事」に憑かれた者たちの、荒廃した私生活だ。
特に、「30秒で高飛びできるように、余計なものや人間関係はもたない」をモットーにするニールが、うちに秘めた孤独の描写!!!
彼が、一般の女性と恋に落ちる時に、自覚する、アウトローの孤独と悲哀!!!!

ゆったりと丁寧に進むペースは、徐々に緊迫感を増す。
2人の主人公はやがて相手の存在に気づき、強く意識するようになっていく。
後半のニールとヴィンセントの対話シーンの両者の演技!!
そして、運命の銀行強盗決行。

有名なロス市街での銃撃戦の迫力は、今見ても全く色褪せていない。
史上空前、の惹句は、伊達ではない。
そして、ニールの決断、最後の対決…。
終盤は、センチメンタルが止まらない。

上映時間が長く、特にヴィンセントの私生活パートにダレる点がないではないが、テーマに照らせば、これを省くことはできまい。

全体として、90年代を代表する名作の声に偽りなし!!!であろう。
人によってはオールタイムベスト級かもしれない。
私は、プロの生き方に痺れる一方、男同士のセンチメンタリズムや悲哀はそこまで刺さらなかった。

[テーマ考]
今作は、追うものと追われるものの鏡像関係と、相反する立場にあるプロ同士が抱く共感、その皮肉と悲哀、にあろう。

私生活を捨てて、仕事に憑かれた男たちは、共に孤独で、自らに課した戒律に魂の奥底まで縛られている。
もはや、温かい「普通の」生活は望めない、その孤独。

相手の情報が明らかになっていくにつれ、互いに相手のことを意識するようになる。
ふと口にする、敵に対する賞賛の言葉。
そして、漂う予感。
この世界で、宿敵のみが、自分を真に理解できるのではないか。
その唯一の相手を、殺さなければ、自らのアイデンティティ=プロの矜持を保てぬ、その皮肉と悲哀。

これらは、くどくどしたセリフで語られるのではなく、映像と文脈、演技で、染み込むように伝わってくる。

二大俳優の、W主人公のキャスティングは、このテーマに照らして理解できる。
2人は同格でなければならなかった。
どちらかが格下では、この鏡像関係は成り立たないのだ。

ところで、今作では、アウトローや刑事のプロ意識のしわ寄せは、女性や子供に向かう。
女性キャラクターは多数出てくるが、主体的に活躍するシーンはほとんどない。
良いとか悪いとかではなく、時代を感じる。

今作に、犯罪はやめておこう、とか、家庭を大事にしよう、などというメッセージを求めるのは野暮である。
シビアなプロの生き方に痺れ、滲み出る男のセンチメンタリズムに酔うのが正しい見方であろう。
この辺りを好まない人にはとことん合わないと思われる。

[まとめ]
二大俳優共演の、90年代クライムサスペンスの金字塔的名作。

好きなシーンは、ニールが初めてヴィンセントの顔を確認するシーン。
痺れるー!!!!

ところで2023年現在、マイケル・マン監督自身が執筆した「ヒート2」という今作の続編小説が刊行されている。
続編の映画化も企画が進行中だとか。
とりあえず、小説は読んでみたい。