Ginny

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼けのGinnyのレビュー・感想・評価

4.0
寅さん初めて見ました。

人情というのはこういうものなのかと
心打たれて涙が出そうになりました。
なぜ、寅さんという一見身勝手にも見えるおじさんが作中でも好かれて、世間でも人気なのか。見ている前半はやりとりや言動が面白いしかわからなかったけど見てるうちに彼の心意気に感動しました。
そして、寅さんだけじゃない、本作のマドンナの牡丹さんや、重要な登場人物として出てくる宇野重吉演じる画家の先生にも感じました。

話のクライマックスは、牡丹が騙し取られてしまったお金を取り戻せるか、補填できるかというところ。
この騙し取った男性がこれまたむっかつくんですよ。
いけしゃあしゃあと…。
法律は弱者を守ってくれない。
私は、六法全書はこのゲームでよくある攻略本だと思っています、この世界を生きる攻略本。網羅して隙をくぐればかなりギリギリでも悪いことをしながらも追及されず甘い蜜をすすっていけるんです。
「法律の上に眠るものは保護に値せず」と聞いたことがあります。
権利を行使しなければ法律の保護を受けることはできないんです。
そんな風に知らないと、権利を行使しないとただ搾取されるだけ。

牡丹のケースはきっと世の中にありふれている、泣き寝入りして悲しい思いをしている人は五万といる。逆に甘い蜜をすう神経を疑う人間ともいえない生き物もたくさんいるはず。
そんな世界で、どう生きてこうというときに、この寅さんという人間は、この話は、人々の心に活力を、希望を与えてくれるものだと思いました。

スーパーヒーローで特殊能力を使って、悪者を消してくれるだとか、何かボロが出てきてその隙をついて法律的にも解決できる、そんな超絶ご都合主義の勧善懲悪の展開は本作にない。

でも、寅さんは怒ってくれた。
自分のことじゃないのに。
全身全霊で力になろうとしてくれて、太刀打ちできない世の中の不条理に、「仕方ないね」って流さずに怒ってくれた。
それだけでも、とってもとっても感動しました。
気持ちが嬉しい。そして牡丹もそれをわかる女だった。
くぅ、いい女じゃねえかと胸のすく思いでした。

私が映画を好きになりたての中学生のころは、ハリーポッターだのロードオブザリングだの、もしくは身近にいない外国人のカラフルな日常とか。
ファンタジーとか、非日常的なものばかり見てあこがれて、実は私は元の世界に戻ってくるのに1週間かかっていたんです。
映画を見てから、面白かったーという感想とともに心にあるのは、なんで私の世界は違うんだろうと思って引きずっていたんです。
今だったら、映画の中に描かれてることと、自分の世界の共通点、繋がる部分もわかるけれど、映画リテラシーが今よりも乏しかった頃は線引きが難しかったのです。

そういう、ファンタジックなentertaiな映画も良いけれど、そんなの一般人の日常に、ない。
あー楽しかったねーで終わるエンターテイメントじゃなくて、日々の日常の延長線上にある、人情を描くものだからこそ寅さんシリーズは長く人々に愛され続けたのかなと思いました。
こういう映画が、何本も製作されて愛され続けた日本映画界の時代、良かったと思います。今は知らんけど。

宇野重吉が、女性の宅を訪れて、そして去っていく道中で、女性が建物のそばに立って見つめるだけ、のシーン。
空中から見下ろすように撮影したあのシーンは感動しました。
多くを語らず、映像と表情で魅せるシーンに唸りました。それは、2人の会話シーンから繋がる関係の雰囲気そのままで、蛇足がなく美しかった。
全編を通してわちゃわちゃ寅さんやさくらとか家族がするシーンでも、人物がかぶらず配置がきれいで、引きとアップのバランスと効果がとっても良くて、撮影手法的にも良くて感動しました。

こんな人情ドラマあるんですか、と。
内容も良くて、映画技法的にも私は良いと思えた。
小道具大道具セットにしろ庶民のものだけど稚拙さはなく、良かった。
良い映画です。
Ginny

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