GreenT

サブマリンのGreenTのレビュー・感想・評価

サブマリン(2010年製作の映画)
3.0
本編の前に「親愛なるアメリカ人へ」という、主人公オリバーからのメッセージが出てきます。

My Dear Americans, The film you are about to see is a biopic of my life. The events take place, not so long ago, in a proud land called Wales. Wales is next to England, a country you pretend to treat as an equal. My homeland has produced Catherine Zeta-Jones, Tom Jones and some other people. You have not yet invaded my country and for this I thank you. Submarine is an important film. Watch it with respect. Fond regards from your protagonist, Oliver Tate.

「親愛なるアメリカ人へ。これから君が観る映画は、ボクの自伝映画だ。これらの出来事はついこの間、ウェールズと呼ばれる誇り高き土地で起こったことだ。ウェールズはイングランドの隣りにある、君たちが平等に扱っているフリをしている国だ。我が国はキャサリン・ゼタージョーンズ、トム・ジョーンズなどの偉人を輩出している。君たちはまだ我が国を侵略していない。そのことには感謝したい。『サブマリン』は重要な映画だ。敬意を持って観て欲しい。主人公より愛を込めて。オリバー・テイト」

なんスか、これ?!

どうも、オリバーは、っていうか、多分ウェールズではアメリカのTVドラマがすごい流れていて、オリバーはそれを観て「自分の現実とは剥離している」と思っているように見受けられるんですよね。オリバーの家の近所とか学校とか、古臭く、貧しいとまでは行かないけど昭和の東京の下町みたいな感じがあって、この映画2010年ですよね?この頃でもウェールズはこんな時代に取り残された感じなのか、それともこの映画の設定が1980年代くらいなのか、わからない感じでした。

制服着ているから、そこもちょっと日本の昭和っぽい。家の玄関が引き戸だったりとか。

15歳の男の子の成長物語なんだけど、見せ方が独特で、出てくる登場人物もみんな変わり者ばかりで「なんなんだ」って感じで観続けちゃいました。だって、オリバーのお父さん・ロイドがノア・タイラー(『あの頃ペニー・レインと』)、お母さんのジルがサリー・ホーキンス(『シェイプ・オブ・ウォーター』)、お隣に引っ越してくるスピリチュアリストのグラハムがパディ・コンシダイン(『ホット・ファズ』)なんだもん!

オリバーの同級生たちも、ハリウッドのセレブの子供転じて子役俳優、みたいな子じゃなくて、イギリスの田舎とか、スコットランドやアイルランドの映画に良く出てくるじゃないですか、なんかすげー歯が大きくて「ニカっ」って笑う子とか。ヒロインのジョーダナも、いい意味でぽっちゃりで美人じゃない。そもそも「ジョーダナ」って名前がヒロインの名前じゃないよね(笑)。

しかし、ブリティッシュ系の人って、サッカー・フーリガンとかパンクスとか、野蛮なイメージあるじゃないですか?この学校のいじめもすごいんですよ。明るく暴力的(笑)!

オスカーとジョーダナも、仲良くなって一緒に遊ぶんだけど、ツバの飛ばし合いとか放火を楽しむ(笑)。

特に放火は、ムシャクシャしたときには一番の娯楽らしい(笑)。

あ、あと、ジョーダナがオリバーのすね毛を燃やして爆笑しているところ「くだらねえ!」って私もウケました。

しかしまあ、昭和の頃は東京でも子供たちはかなりワルいことしていたので、なんか懐かしかったし、2人の屈託のなさが可愛らしくも思えて、それにこの辺のシーンは「オスカーが撮ったホームビデオ」風に見せているのでなかなかノスタルジックで良いシーンでした。

映画自体は「序章」「パート1」「パート2」「エピローグ」みたいに別れていて、オリバーとジョーダナの「パート1」は良かったんだけど、「パート2」の家庭崩壊のところはちょっとグデグデな感じになりました。

この、両親がギクシャクしてくるのと、オリバーとジョーダナの関係性が変わっていくところをパラレルに描くっていうのが面白いなあって思ったけど。

思春期の子供たちは常に成長していくので、オリバーが「ツバ飛ばし」や「放火」でなく、ジョーダナとセックスしたり、もうちょっと親密な関係になりたい、と思うんだけど、ジョーダナはそこまで成熟していないように見える。逆に、ジョーダナはお母さんが癌を患っていて、死んじゃうかもしれない、って状況で、オリバーにメンタルなサポートを要求するんだけど、オリバーはジョーダナの家族にまで関わるような深い関係になる気はない、そういう意味では大人になれない、みたいなズレが生じてくる。

オリバーが「お母さんが死んだ後、ジョーダナは全く別の人間になる・・・。もうすね毛を燃やして笑ったりしなくなるだろう」って独白するシーンがあるんだけど、これって思春期の時、急に友達と心が通わなくなるような、あの感覚を思い出しました。

オリバーのように、ガールフレンドとこじれ、両親が離婚しちゃうかもしれない、みたいな鬱々とした状態の時の気分を、海洋学者でうつ病っぽいお父さんが「まるで人間が生きることができない深海に沈んでしまったような気分」って言っていたので、だから『サブマリン』ってタイトルなのかなって思いました。『卒業』でも水中のシーンあるじゃないですか?あんな感じ。

この映画iMDbで7.3/10 とすごい評価高くって、映画評論家のロジャー・イバートさんも「子供から大人になるデリケートな瞬間をうまく切り取って、大人の目線でのフィルターをかけずに赤裸々に描いた」ところが良い、つまり「ティーンがセックスしたいよ〜みたいな単純なアメリカの思春期コメディとは一線を画す」ってことらしいです。

個人的には嫌いじゃなかったけど、私は『あの頃ペニー・レインと』ほどのインパクトはなかったです。思春期映画っていうとアレかなあ、私には。最近観たのでは『バグノルド家の夏休み』っていうのにちょっと雰囲気が似ているなって思いました。
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