むさじー

かくも長き不在のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

かくも長き不在(1960年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

<記憶喪失の男と、待つ女のミステリアスな出会いと結末>

愛する夫を戦争に奪われ、消息不明になって16年「まだ生きているはず」とひたすら信じそれを支えに生きてきた女。
だから、人違いかも知れないのに偏執狂ととられかねない行動に出て、男が去っても、たぶん永遠に待ち続けるのだろう。
それが今を生きている意味だから。
男は自分に優しくしてくれる女に親しみは持つものの、記憶は戻らず、自分がどうしていいのか、訳の分からない不安に襲われる。
結局男は女の元を去るが、ピエールが言う「無事」も彼女を支える優しい嘘かも知れない。
戦争がもたらした長い不在、戦争によって引き裂かれた男と女、純愛というにはあまりに切なく、戦争の悲劇とともに重く心に響いてくる。
反戦映画にしてミステリアスな恋愛ドラマなのだが、その要因は「記憶を蘇らせることが出来るか」という展開と、「男は本当にアルベールなのか」という謎解きに惹き込まれるからである。
語り過ぎない、全てを明かさない、感情表現は演者の表情や所作に委ね、声高でなく静かに訴えてくる。
現代の映画が失った古い名画の良さがここにある。
アリダ・ヴァリはこのとき39歳、モノクロの繊細な陰影、抑制された静謐な映像の中で、絶対ではない記憶の深淵と希望の間で揺れ動く女心を切なく美しく演じている。
むさじー

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