むさじー

宇宙探索編集部のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

宇宙探索編集部(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<夢だけを求めた男の悲哀と達観>

かつての人気は衰え廃刊寸前の雑誌『宇宙探索』の編集長タンは、中国西域で宇宙人による怪現象が起きたという情報を掴み、起死回生を図るべく編集部員らスタッフと共に現地に向かった。
夢に取りつかれ馬鹿な行動に走った男のSFコメディで、映画自体は荒唐無稽な笑いと中年男の哀切さが漂うものだがそれ以上に含みがあって、散りばめられた真摯なメッセージに魅かれた。柔らかな政治批判と生きる意味を問うものだ。
序盤に持論を力説しながら、「過度な欲望は消費主義による罠であり、人類の進歩を阻害する障壁だ」という、資本主義経済下で豊かになった自国を揶揄するセリフが入る。人間らしい夢や理想を失ってそれでいいのか、という疑義を突きつけているようで印象に残った。
そしてエンディング。うつ病で自殺した娘が残した「人類はなぜ存在するか」という質問に答える形で結婚式のスピーチをする。詩的でやや分かりにくいので私なりに要約すると、
「私たちが宇宙に存在する意味、その答えは私たちの存在自体にあり、謎でもあるが答えそのものでもある。宇宙を形成する一部として人が生まれ、宇宙において生を営み、やがてその営み(人生)が人の存在意義になるのだから」。
かつて壮大な夢を持ち、多くの読者を得た成功体験が忘れられず、夢を追い求めて歳月が経ち初老を迎えたタンの人生。宇宙人の存在を実証することはタンの夢だが「生きる意味」ではなかった。そして気づいたのは、人間は何かのために生きるのではなくて、人の生そのものが生きる意味であるということ。意味を求めず夢を求めよ、ということか。
英題の邦訳は『西遊記』。西域への巡礼で求めたのは魂の救済だった。映画大学の卒業制作で超低予算のはずだが、期待せずに観て巡り合った怪作にして快作。
むさじー

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