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ミス・ポターのtakのレビュー・感想・評価

ミス・ポター(2006年製作の映画)
3.5
世界中で愛されているピーター・ラビット。その作者であるビアトリクス・ポターの半生を描いた伝記映画。彼女が生み出した物語は今も世代や国境を越えて愛されている見事なファンタジーだが、彼女の生き方そのものにも、僕らはおとぎ話のような不思議な魅力を感じずにいられない。

〈むかしむかし。イギリスのあるところにビアトリクスという女の人がおりました。彼女の一番のおともだちは、青い上着を着たうさぎ、ピーター。それは彼女の描いた絵に出てくるうさぎです。〉

絵本風にするならそんな感じかな。

20世紀初め、ヴィクトリア女王時代のイギリスでは、上流階級の女性が職業を持つことをよしとしなかった。そんな時代に絵本作家として大成する三十路の独身女性。当時としてはかなり型破りな存在だ。それだけ自己顕示欲のある人かと思いきや、子供のように空想が好きで、いろんなことに興味津々。そんな少女のような人なのだ。レニー・ゼルウィガーは製作も兼ね、楽しそうに演じている。

映画はピーター・ラビットの出版に関わった編集者ノーマンとの恋物語を軸に描かれる。二人が訪れる印刷所でのひととき、ホームパーティも監視が離れない。やっと二人きりになれた自分の部屋でオルゴールをかけながら踊る場面がいいね。

〈ノーマンはオルゴールに合わせて歌いながら、ビアトリクスと踊りました。〉

ユアン・マクレガーの男の優しさ。出版を勧めるときも、相手を気遣いながら上手に気持ちを高める彼のやさしい接し方。しかし、結婚を目前にしながら彼が病死。ビアトリクスが苦悩する場面の表現は見事だ。

〈湖のそばに移り住んだビアトリクスは、絵本で稼いだお金で農園を買いました。それは美しい田舎の風景をずっと残していきたかったからでした。次々と土地を買ったビアトリクスはその風景をながめて静かに微笑みました。

そして、ビアトリクスが遺した土地は100年前のまま今でもうけつがれているのです。〉

このあたりがちょっと納得いかなかった。開発業者との競りに勝って土地を手に入れていくビアトリクスは、当時きっと反感も勝ったと思われるし、様々な嫌がらせも受けたに違いない。そこには全く触れることなく、90分そこそこで映画は終わる。ちょっときれいに終わり過ぎじゃない?。伝記映画ならもっと現実が描かれてもよさそうなものだが。

でも、映画館を出て思った。ビアトリクスの生き方は僕らにとってファンタジー。そこをほんわかとまとめるには、これで十分なのかもしれない。監督は子豚を喋らせた「ベイブ」のクリス・ヌーナンだもの。ナショナル・トラストの活動に尽力する現実よりも、僕ら観客を微笑ませてくれるおとぎ話を選んだのに違いない。
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