半兵衛

幸福(しあわせ)の半兵衛のレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
4.2
「幸福」なのは個人なのか、家族なのか、集団なのか、人によってまちまちだと思う。ただ幸福と思っている人間がいる一方で、自分は不運だと思っている人間が隣にいるのがこの社会では常にある。そしてその人間が自分の家族だとしたら。

この映画はそんなことを気づかされる。一見好人物のような主人公の男は、家族や周囲のことを考えているようで実は自分が「しあわせ」であればいいと思っている成瀬巳喜男作品の森雅之や上原謙のような屑人間キャラ。不倫をしているにも関わらず何の罪悪感もなく、愛人にしゃあしゃあと「妻を愛している、君も愛している」と言ってのける様は自己肯定の塊のよう。そしてあっけらかんと妻に不倫を認めるシーンの怖さ。

主人公の奥さんは家族や夫を優しく見守る出来た奥さんで、貞淑そうな印象の強い女性。そんな彼女が夫が不倫を認めた直後に取った行動は、「しあわせ」と言った夫に対する彼女なりの解答を見ているようで、思わずゾッとする。夫の自己肯定の「しあわせ」話を優しく聞いているだけに尚更である。

そしてラストの家族の後ろ姿、単純に見るとしあわせそうな風景だが、映画を見るとなにかが欠落したような恐怖感が残る。

ちなみにこの映画で「裸エプロン」というシチュエーションが出てくるが、こういうのってこの映画が初めてなのかな、少なくともこの映画経由で日本で広まった気がするが。
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