亘

リラの門の亘のレビュー・感想・評価

リラの門(1957年製作の映画)
4.0
【"ろくでなし"の人情】
パリの下町。大酒飲みのジュジュは母親からも「ろくでなし」と突き放されるぐうたらな男。いつも仲良しの"芸術家"の家に入り浸っていた。そんな時町に殺人犯ピエール・バルビエの指名手配が通告される。平和な町は震撼するが、ひょんなことからジュジュたちが殺人犯をかくまうことになり次第に心を通わせていく。

パリの人情味あふれる下町を舞台に、殺人犯ピエールとジュジュ・芸術家のやり取りを描いた作品。殺人犯をかくまうという設定はサスペンス感あるが、それよりも当時の社会のおおらかさやろくでなしジュジュの人情と成長が印象的で、ところどころコミカルなシーンもあってくすっと笑える。意外性のある終わり方も切なくてしんみりした気分と同時にジュジュの成長を感じられる。

[ピエールとの出会い]
ジュジュはろくでなし。定職に就かず毎日酒場に通い時にただ酒も飲む。母親も彼のことを信用していないし、毎日友人の"芸術家"の家に入り浸り、また飲んでいる。そんな怠惰な生活を送っていたある日町で殺人犯が逃げたという知らせがあった。町が騒然とする中、ジュジュは店でフォアグラの缶詰を盗むろくでなしっぷり。しかし"芸術家"の家に帰ってから彼を取り巻く状況が変わる。いつの間にか殺人犯ピエールが入り込んでいたのだ。

[ピエールとの接近]
初めはピエールに脅されてかくまっていたジュジュと芸術家は、翌日にはピエールが去ることを期待していた。しかしピエールが熱を出してしまう。それでジュジュは同情して看病を始める。この熱病というのも、どちらかというとピエールの逮捕への恐怖や興奮状態に因るものだし自業自得といえば自業自得。だけれどジュジュの人の良さが出ている。さらにはピエールが女性にフラれて自暴自棄になったことで余計にピエールに同情する。長くかくまうにつれ、警察にも本当のことを言いづらくなる。

ジュジュが次第にピエールに同情していくにつれジュジュが憎めなくなってくる。それにあんなにぐうたらだったジュジュが活動的になるのも印象的。とはいえあまりスマートではないために、わざわざ大げさな作戦をしてしま1ったりするのがコミカル。

[マリアとの恋]
マリアは酒場の主人の美しい娘。ジュジュとは顔なじみであったが、ジュジュは以前から彼女に思いを寄せていた。彼女と一緒にいたいと願うジュジュは、秘密を作ることをはばかり彼女に秘密を打ち明けてしまう。すると翌日ジュジュと芸術家のいない間にマリアはピエールと遭遇、ピエールは美しいマリアに恋をしてしまう。その後ピエールとマリアの夜のあいびきが始まる。

物語に新たな主要人物が現れるシーン。ろくでなしで太ったジュジュと美しいマリアは不釣り合いに見える。だから2人の恋はほほえましくも見える。そこからピエールとマリアが恋に落ちるのは想定外なのだけれど、すると今度はジュジュが不憫に思えてしまう。一方でピエールとジュジュの友情にも拍車がかかって、まるで青春ドラマのようなやり取りもするし、ピエールの二面性が見えてくる。

[別れ]
芸術家のパスポートが完成すると、ついにピエールの国外逃亡が近づいてくる。一方でマリアは毎晩の外出を不審がられるようになる。そして逃亡の日、ピエールはマリアへの手紙をジュジュに託す。この内容はまさにジュジュにとっては辛いもの。マリアにとって今となってはピエールしか頭になかったのだ。そしてマリアの返事をピエールに渡すと、ついにピエールの真の目的が明らかになる。そして2人の別れが訪れる。

ジュジュがさらに不憫になるシーン。ジュジュはろくでなしで他人のことをあまり考えていなかったけど、ピエールとの友情やマリアとの恋で変わった。もしかしたら元々根が優しいのかもしれない。そんな彼が信念のためにピエールと対峙する。この成長ぶりは印象的。別れの翌日に町がどうなったのかはわからない。ジュジュは今となっては、まっすぐなまともな男になったのだ。ある意味ハッピーエンドではあるけれども同時に切なさが漂うラストだった。

本作で印象的なのはやはり人情だろう。舞台となる1950年代のおおらかさもあるけれど、なによりジュジュはストーリが進むにつれ人の良さが出てきて憎めない。それにジュジュは序盤で他人を信用していないと言っていたけれど、終盤ではマリアとの恋もあり他人のために生きるようになる。このジュジュの成長も印象的。それに対するのが殺人犯ピエールだろう。中盤ではジュジュの人情によってまともになったように見えるけれども終盤に本性があらわになる。だからこそラストシーンではジュジュと同様観客もピエールに裏切られた気分になりラストシーンでは切なくなってしまうのだ。まさに観客も大いに感情移入できる名作だと思う。

印象に残ったシーン:子供たちがピエール逃亡の一部始終を遊びで再現するシーン。ピエールとジュジュが雪の中で会話するシーン。ピエールとジュジュが対峙するシーン。
亘