亘

ライダーズ・オブ・ジャスティスの亘のレビュー・感想・評価

3.8
【偶然は存在するか】
軍人のマークスは妻と娘が列車事故にあったとの知らせを受け緊急帰国をする。その後娘のマチルデは助かったものの妻を亡くしてしまう。悲しみに暮れる彼の元に事件当日に列車に乗っていたというオットーが現れ、彼に事件は偶然ではないと語る。

1つの列車事件を軸に事件の復讐に突き進み周りが見えなくなる男を描いた作品。ある事件の裏の意図を信じる遺族を描くという点ではもしかしたら邦画の『空白』と通じる部分があるかもしれない。でも本作は主眼は怒りに走る遺族の方に置かれている。それとは対照的に本作ではシュールでブラックなユーモアもあるのも印象的。マークスを手伝うオットーたち数理系スペシャリスト軍団はすっとぼけていてちょくちょくボケを挟んでくる。それもあってシリアスになりすぎず見やすくなっているように思う。

マークスは中東での任務の途中、列車事故の知らせを受けて急遽デンマークに帰国する。そこで娘は助かったものの、妻は亡くしてしまう。そこから悲しみに暮れつつも娘マチルデとの2人暮らしが始まる。とはいえこれまで家にいなかったマークスはマチルデとの接し方がいまいち分かっていない。2人の関係は少しギクシャクする。

そんな時に彼の元をオットーが訪れる。彼は事件当日に列車でマチルデたちに席を譲り、結果としてそのおかげで軽傷で済んでいたのだ。そんな彼は列車事故でなくなったギャングのボスと直前に下車した謎の男の関係性を疑い、ギャング組織ライダーズ・オブ・ジャスティス(ROJ)のせいだと主張。さらに知人ウルフとレナートを集めてマークスと共にROJ征伐に挑む。

マークスは当初復讐に意欲的ではなかった。それでも次第に意欲的になるのは、マチルデとの関係性がうまくいってないのもあるのだろう。マチルデは事件に少なからず責任を感じていた。彼女の自転車が盗まれていなければ、車のエンジンがかかっていれば、あの日電車に乗らなかったのだ。マークスにしてみれば罪悪感に苛まれている彼女を解放すれば娘に認められてうまくやっていけると考えたのだろう。それに単純に娘を悲しませて家族を壊したROJへの反感が出てきたのかもしれない。

とはいえそこからのやりとりはどこかオフビート。とあるメンバーをあっけなく軽く殺してしまうがそこまで重大に描かれない。さらにオットーたちが組織の他メンバーの調査を続けるシーンも調査よりも、マチルデに調査を隠すことの方が多く描かれている。ただその方法はコミカルで、レナートが臨床心理士のカウンセリングを真似るシーンはいいことを言っているようでツッコミどころがある。
しかしその後はかなりのアクションシーンが続く。ウクライナ人青年ボダシュカも巻き込む。さらに終盤にある家での銃撃戦シーンはまさにアクション映画で迫力満点だった。

ただ調査の中で判明する事実は衝撃だった。彼らが信じていたROJは真犯人ではなく、全ては偶然だったのだ。これにはマークスも無力感を覚えただろう。なぜ彼はここまで労力をかけて”正義”を求めていたのか。確かに偶然が重なり続けているが全ては本当に偶然だったのだ。きっとみんな誰かが責任があると考えたいのだろう。マチルデは自転車を盗まれた自分の責任だと感じ、オットーは自分が席を譲ったことでマークスの妻が亡くなってしまったと責任を感じていた。そしてマークスもいつしかROJに責任があると考え始めた。どこかに落とし所を見出したかったのだろう。

ただ最後にはマークスとマチルデだけでなくオットー、レナート、ウルフ、ボダシュカ含めみんなで家族のようになる。これは銃撃戦を乗り越えた絆もあるだろうが、それ以上に復讐や悪者探しをやめて事故のあるがままを受け入れたことで、新たな一歩を踏み出した姿に見えた。
そして本作冒頭とラストに映るエストニアの自転車の話もまさに”偶然の重なり”の象徴だろう。マチルデの自転車は決して盗まれてエストニアに行ったわけではないのだ。間の小話的なエピソードではあるけど、本作の主題と共鳴していたように思う。

印象に残ったシーン:レナートのカウンセリングシーン。マークスたちがクリスマスに談笑するシーン。
亘