Mikiyoshi1986

熊座の淡き星影のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

熊座の淡き星影(1965年製作の映画)
4.3
本日11月2日は20世紀のイタリア映画を代表する巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督のお誕生日です。
生きていれば今日で111歳に。

ヴィスコンティが手掛けた作品の中で"唯一のミステリー"と称され、
ギリシャ悲劇「エレクトラ」をベースに新たな姉弟の現代劇を創造した秀作「熊座の淡き星影」

アメリカ人の夫アンドリューが共にイタリア人妻サンドラの故郷を訪れることで徐々に明らかになる彼女の秘密とは…。

トスカーナ地方の歴史ある田舎町ヴォルテッラを舞台に、複雑な家族関係と彼らの隠された過去をサスペンス仕立てで展開してゆくヴィスコンティの手腕は、
前作「山猫」からの冴え渡る覇気で満ち溢れています。
ストーリーを確信的な「画」で語ってゆく綿密な構築にも一切の妥協すら見当たりません。

サンドラを演じるのはその「山猫」でもヒロインを演じたクラウディア・カルディナーレ。
野性的な艶かしさを携え、底知れぬ闇を抱えた女性を見事に演じきります。
入り組んだ大豪邸に困惑する夫は、さながら彼女の謎めいた深層部へと迷い込んでゆくよう。

「エレクトラ」は姉弟の復讐劇でありますがここではそのテーマが異なり、本作はむしろ"エレクトラ・コンプレックス"に起因する比重が大きいと云えます。
ユダヤの名門ながらアウシュビッツ収容所で非業の死を遂げた父親。
それ以来精神を病んで入院している母親。
養父となった弁護士の男。
亡き父を愛し、養父を憎む姉サンドラ。
サンドラの初恋の相手とされる医者。
長年屋敷に住み込む家政婦。
そしてすべての鍵を握る最愛の弟ジャンニ。

イタリアの片田舎にはじっとりとした暗さと寂しさが影を潜め、忌まわしい歴史が呪いのように名門家族の現在をも狂わせている。
そんな退廃的な雰囲気の中、屋敷内の豪華な装飾と調度品をモノクロの映像美で浮き立たせ、
その明暗はやがて姉弟の過去と未来をも分け隔ててゆきます。

そして全編で幾度となく流れるピアノ曲「前奏曲、コラールとフーガ」は我々の心に悲哀の余韻を残したまま、叙情的な幕切れに花を添えるのです。
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