ぴのした

ぐるりのこと。のぴのしたのレビュー・感想・評価

ぐるりのこと。(2008年製作の映画)
3.7
木村多江とリリーフランキー演じる、とある夫婦の10年の物語。

しっかり者の翔子と、のんびりしたカナオはちょくちょくケンカしながらも幸せな結婚生活を送っていた。しかし第一子が死んだのを契機に、翔子は鬱に陥ってしまい…。

リリーフランキーがすごくハマり役でカッコいい。情けないんだけど優しくて、不器用だけど誠実で。

冴えない2人だけど、そんな2人の何気ないやりとり(最初の「今日する日でしょ」のくだりとか)がちょっと可笑しかったり、(カナオが雨に濡れた翔子を自分なりの言葉で慰めるシーンとか)派手ではないけど心が通じ合ってる感じがグッと来たりする。

舞台が90年代ぶっ通しの時代背景ということもこの物語のキモとなっている。不動産のやっている妻の兄は急に落ちぶれて、新聞には株価急落の見出しが踊り、法廷画家のカナオは、サリン事件や幼児殺害事件などを傍聴する。

2人の地味ながらも健気に生きる姿は、社会不安が立ち込めて鬱屈とした平成を生きる日本人の、1つのモデルとして描かれているようにも見える。

月日や季節の巡りの中で、翔子が季節の花々を描き、カナオが法廷でいろんな人々を描くのも、対照的で面白いと思った。

2人が子供の死を乗り越えて夫婦として成長していく中で、2人は多くの人の生死に触れる。カナオの仕事仲間が病気で入院したり、翔子の父親が死に目にあったり、そして裁判傍聴の中で多くの人の死を見聞きしたり…。

「ぐるりのこと」っていうのは、「人の身の回りで起こる様々な出来事」のことらしい。もちろんただ単に身の回りの出来事という意味もあるんだろうけど、もう少し深読みして、循環する季節や月日、そして循環する命の生と死という意味があるような気がしてならない。