HicK

ALWAYS 三丁目の夕日のHicKのレビュー・感想・評価

ALWAYS 三丁目の夕日(2005年製作の映画)
4.1
《エモエモパワープレイ》
〜だけど刺さる〜

【不思議な作品】
クサく不自然なセリフ、やりすぎ感のある寒いコント、美化された舞台設定、アニメ的なオーバーアクト…。普段は嫌ってしまうような要素の集合体でフィクション感・ファンタジー感が強い。全てひっくるめて「監督が想像する昭和のエンタメ」と言った所。ただ、それが不思議と幼少期を振り返った時の感覚とも重なっているのか、…エモい。そして、ある俳優のおかげで結構刺さってしまう作品。

【オムニバス的】
季節ごとに分かれたチャプターの中で、各エピソードの"種"がまかれ、季節の終わりに実を結ぶ。バラバラのエピソードが集まり絡んでいく。こういう展開、いいなぁと思う。住民たちの連鎖反応も面白く、小さな出来事から物語が広がったりもする。

【演技】
コントチックな場面で映える役者を集めたキャスティング。1作目なのに既に「サザエさん」みたいなキャラ立ちで、全員がブレない演技をしている。方向性に関しては好みで分かれてしまうと思うが、きっちり監督のテイストに合わせてくる俳優陣はすごい。

駆け出しの堀北真希も好演。コメディーでもベテラン陣と互角の存在感。一平役の小清水くんはナチュラルなあざとさがツボ。学校で淳之介の小説を読み上げるシーンとかムカつく演技が笑える。

【何より薬師丸ひろ子】
世の中の「母」のいい所を全て役に詰め込んだかのような設定にぴったりと合った存在感。優しい母だったり肝っ玉母ちゃんだったり場面場面で違う顔を見せる演技が素晴らしい。コメディーセンスも抜群で、ホッコリする笑いの仕掛け方が好き。そして、彼女の温かさにウルッとくる場面も。今作に感情の幅をもたらし、醸し出る「母」要素がかなり刺さった。MVP。彼女のお陰で今作が好きになった。

【演出】
自分が思うに山崎監督の特色って、最優先に「観客の感情をコントロール」する事を置いている点な気がして、そう言った意味ではこのシリーズが1番分かりやすくカラーが反映されてるのかも。(全監督作を見た訳じゃないけど)。あの手この手で仕掛けてきた印象。で、まんまとヤられる。

あとは、巨大豪華セットを有効に使ったカメラワークや長回しの多用など、群像劇としては理想的な演出も多かった気がする。特に長回しの時の周囲の生活感が面白かった。

【音楽】
ノルスタルジー漂う楽曲が多く、ここぞと言う時に使ってくる。その音楽の力が強すぎて感動の強要にも感じるが、結局、ゴリゴリ押されて泣かされる。

【VFX】
当時の邦画としては間違いなく質の高いVFX。三丁目のシーンはスタジオセットとロケ撮影を組み合わせてるみたいだけど、ライティングが良いのか全くもって自然。ただ、上野駅とかの人混みのフルCG人間はちょっと気持ち悪いかな。

【総括】
全編に溢れる不自然さ。嫌いな物が詰まってるのに最後にはジ〜ンと感動してしまう。やっぱり、今作が描くフィクション感たっぷりの「理想郷」と自分の心にある「あの時代」がリンクしてるのかも。そこに薬師丸ひろ子の戦闘力と交戦的な音楽が加わり、自分の心のバリアをゴリゴリ削っていく。最後にはエモエモ状態に。総じて、この時代を生きていない監督が作る一種の「ファンタジー作品」として好き。とても不思議な力を持った作品。
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