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吸血鬼ゴケミドロのドントのレビュー・感想・評価

吸血鬼ゴケミドロ(1968年製作の映画)
3.7
 1968年。終始ニコニコしながら観てしまった。俺は人間たちが醜悪に揉め続けて破滅する話が好きなんだ。様々な乗客のいる航空機、空は狂ったように赤く、鳥が窓ガラスに激突して「自死」を選ぶ不穏の最中、飛行物体が接近し計器が壊れた航空機は不時着する。生き残った者たちに迫る怪生物、その正体は……
 副機長とCAを除いた7人ほどは極限状態でおかしくなったり他人を足蹴にしたり元からおかしかったりして人間関係トラブル続き、これはもちろん人間社会・世界の露悪的な縮図であり、政治とか戦争とか、人間関係のいやらしさとかシステムへの生贄とか、そういうのがさほど説教臭くない形でキューッと注射されている。戦争で夫を亡くした寡婦も他人を楯にする。サバイバらなければならないのに要らぬケンカしたりする。
 いやぁ世も末だなぁ、人類は滅ぶべきだなぁ、と思っているとUFOと宇宙生物がやってきて人をとって喰う(生き血をすする)ので、なんというか必然、あぁもうこりゃあちょうどよかった、どんどんやってくださいな、なんてな気分になる。殊に政治家&大企業の重役コンビの醜悪さたるや素晴らしく、やることなすことのドブカスぶりに「やっぱりこうでなくっちゃね!」と穏やかな気持ちになった。
 SF要素はそりゃあ55年前の映画なので古い。古いけれども、たとえばUFOへと呼び込まれる後ろ姿の輪郭のボヤけ方、額がピシリと割れる瞬間、宇宙生物の這い方のナマっぽさ、額に入っていったりムリュムリュ出てくる質感、このあたりについては今観ても全然イケる。いちばん厳しいのは特撮なんかよりも宇宙生物の名前が「ゴケミドロ」な点ではないかと思う。ゴケミドロ……
 対宇宙生物のサバイバル展開から終末的風景に入り込む終盤も「そうだよね、こうでなくっちゃ!」という救いのなさであった。ラスト直前のロングショットなんかフルチの『ビヨンド』めいていて感激すらした。そういえば宇宙生物に操られ風に吹かれて崖に立つ女性も同作の長い道路のシーンに似ている。強烈な「赤」が適宜スクリーン全体を支配し、避けられぬ死と破滅で作品を塗り潰す。いいですね。いい映画です。このご時世に観てよかった。
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