エイデン

吸血鬼ゴケミドロのエイデンのレビュー・感想・評価

吸血鬼ゴケミドロ(1968年製作の映画)
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1960年代後半の日本
世にも珍しい赤い空が広がる中、伊丹空港行きの小型旅客機が羽田空港から飛び立った
窓に鳥がぶつかって死ぬという不気味なことが起こりながらも、機は順調に進んでいた
しかしそんな折、管制塔から機内に時限爆弾が持ち込まれたという知らせが舞い込む
機長は乗客を混乱させないよう進路を羽田へと変え、副操縦士の杉坂と客室乗務員の朝倉は乗客のカバンを確認することに
荷物の取り違えがあったと言い、順番にカバンの中身をチェックしていたところ、極限状態の人間の行動に興味があるという不気味な精神科医 百武が、探しているのは爆弾ではないかと言い、高慢な政治家 真野とその太鼓持ちである武器製造会社社長 徳安が騒ぎ始める
何とかその場を収め引き続き確認を続けていた杉坂は、持ち主不明のカバンを発見する
中には一見何も無いように見えたが、入っていた薬品をこぼしてしまったところ、カバンの底が溶け、隠されていたライフルが現れるのだった
杉坂は唯一カバンを持っていないという怪しい男 寺岡が犯人ではないかと考える
すると直後 寺岡が拳銃を手に立ちはだかり、朝倉を人質に取ってしまう
彼は某国の大使を暗殺したテロリストだったのだ
そのままコックピットに向かった寺岡は、沖縄へと進路を変えるよう命じる
再び客室に戻った寺岡は、威嚇のために乗客に向けて発砲すると、誰かが落としたラジオから、未確認飛行物体が日本上空に現れたとのニュースが流れる
その時、コックピットではまたもや鳥がまるで窓から逃げるかのように突っ込み死を遂げる
すると目の前に、光る謎の飛行物体が現れ機体の上空を通過、全ての計器が一斉に狂ってしまい、機体は山中に墜落してしまうのだった
しばらくして機長の遺体の隣で目を覚ました杉坂は、朝倉、真野、徳安とその妻 法子、百武、学者の佐賀、未亡人のアメリカ人女性ニールらの無事を確認する
寺岡は墜落の衝撃で死んだように見えた
すると乗客の1人で、時限爆弾を隠し持っていた松宮が犯人として吊し上げられることを恐れて外へと飛び出すが、何とか杉坂が捕まえるのだった
水や食料も無く、周囲は岩肌が露出した人影の無い見知らぬ土地
加えて寺岡が通信機器を破壊してしまっており、いつ来るかもわからない救助を待つだけとなるのだった
日が沈み、底知れぬ不安から剣呑な雰囲気が続く中、死んだと思われていた寺岡が目を覚ますとライフルを使って朝倉を人質に取ると、外へと飛び出して行ってしまう
逃げる寺岡は山中で光に包まれた謎の円盤を発見
恐怖に駆られた寺岡は走り去ろうとするが、まるで吸い寄せられるかのように円盤の内部へと消えていく
そこで寺岡はアメーバのような生物に這い寄られると、突如 額が割れて謎の生物に寄生されてしまい・・・



松竹の特撮映画シリーズの1作であるSFサバイバル・ホラー
人に寄生して吸血鬼にさせる不定形エイリアンという設定盛り盛りのモンスターによる恐怖を描く

キャッチーなのかどうかもよくわからない名称で油断しがちだけど、割と不気味さはズバ抜けた隠れた名作
その不気味さの由来となってるのがゴケミドロに寄生され吸血鬼と化した寺岡を演じた高英男
実は日本初のシャンソン歌手ながら、涼やかで爬虫類感ある佇まいが存在感あって最高
中盤以降ほぼ無言ながら、額が割れたまま青白いライトで照らされながら立ってるのは普通に怖い
顔に女性器がついてるとか言ってはいけない
また当時の人々にトラウマを与えたのが、ゴケミドロの寄生シーン
額がパックリ割れたかと思いきやどろりとしたゴケミドロがその中に吸い込まれていくのを丸々観ることができる
作り物のヘッドからスライムを出して逆再生してるだけなんだけど、これがまあよく出来てて気持ち悪い
吸血シーンとか隠してるくせに、こっちは妙な生々しさがあって、本格的に嫌悪感を示す人はいそう
また当時の邦画としては珍しいほどのゴアシーンなので、知らずに観てしまった方は気の毒ですね

またサバイバル映画な面も強くて、ギスギスした人間模様が緊張感を煽る
こっちだけで1本映画撮れるんじゃね?とも思ってしまう
ちなみに人間関係の擦れ方は1週間くらいサバイバルしてて救援来ないと察した辺りのそれだけど、作品自体は僅か2日間の出来事
『マタンゴ』のヤツらのが仲良くしてたぞ
それがあるのもゴリゴリにキャラが濃い乗客達のおかげかも知れない
普通テロリストと時限爆弾持った自殺志願者が同乗してたら役満なので、むしろよく仲良くしてたと褒めてあげたい

前述の通り2日間で大抵のサバイバル映画とモンスター・パニックで起こることをやりきるので展開は鬼の様相ながら、実は直接的な平和へのメッセージまでも込められた作品
作中でも話題に登ってるけど、時は東西冷戦やベトナム戦争により平和論やヒューマニズムが活発な時代で、醜い争いを続ける人間と人類滅亡の危機への警鐘を鳴らす作品でもある
その縮図としての、生き残った人間のエゴをむき出しにした争い、そして滅亡の危機として迫るゴケミドロという捻りを加えた強いメッセージが放たれている

クエンティン・タランティーノもファンを公言してたりする、その筋では有名なカルト作品
半世紀も前の作品ながら、昨今の作品には無いパワーを感じる奇々怪々な傑作だ
観ような
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