エイデン

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のエイデンのレビュー・感想・評価

-
高校3年生の百合は、優秀な成績を収めながらも不満を隠せずにいた
ある日、進路相談の三者面談に参加した百合は、進学せずに就職をすることを教師に伝える
真意こそ語らずにいた百合だったが、その理由は遅れてきた母親 幸恵にあった
父が溺れていた子どもを助けて命を落としてから、幸恵は女手一つで自分を育てていたものの、その生活は決して裕福ではなく、百合はそうした生活に悩みを覚えていたのだ
それは言いようのない不満となり、百合は幸恵と入れ替わるように帰宅してしまう
夜も更けた頃、仕事から帰って来た幸恵は貯金を切り崩せば進学もさせられると百合に語りかける
しかし百合はこんな生活になってしまっているのは父が死んだせいだと激昂
そのまま口論になった百合は幸恵に殴られ、涙しながら家を飛び出してしまう
行くあても無いまま雨に降られてしまった百合は、近所の子ども達の遊び場になっている防空壕に入り眠りに着く
そして翌朝、防空壕から出てきた百合は周囲の風景が一変していることに気付き驚愕する
見慣れた住宅街は田畑となり、そこに見知った光景はどこにも無かった
戸惑いながらも辺りを散策した百合は、木造の家が立ち並ぶ町へとたどり着くが、暑さと空腹で調子を崩し動けなくなってしまう
するとそこへ彰という青年が通り掛かり、百合を優しく介抱すると、腹が減っているとわかり“鶴屋食堂”へと彼女を連れて行く
女将のツルに食事を振る舞われた百合だったが、置いてあった新聞を見て思わず息を呑む
そこには昭和20年(1945年)という日付が書かれていたのだ
自分が第二次世界大戦末期へタイムスリップしたことを察した百合は、鶴屋食堂を飛び出し塹壕へと駆け戻るが、元の時代に戻る手掛かりは無かった
絶望しながら鶴屋食堂に戻った百合は、心配するツルに出迎えられ、そのまま宿を借りることに
また心配していたのは彰も同様だったらしく、陸軍人である彼は配給された軍粮精(キャラメル)を百合のために残してくれていた
それを知った百合は、彰の優しさに心をときめかせる
そして翌日、目覚めた百合はここに住まわせてもらう代わりにツルの仕事を手伝うことに
ツルや近所に住む魚屋の娘 千代と触れ合いながら、この時代の生活に慣れていく百合は、やがて石丸、寺岡、板倉、加藤ら同じ部隊の隊員達と食事に訪れた彰とも再会を果たす
改めて心惹かれる百合だったが、ツルから彰達が特攻隊であることを聞かされる
彰は長くて1ヶ月で死ぬ運命にあると知った百合は残酷な運命に苦悩していく



汐見夏衛の小説を原作としたSF恋愛映画

戦時下にタイムスリップした女子高生と、特攻隊員の切ない恋を描いた作品

なかなかありそうで無いような題材の正統派泣かせ映画
鬱屈した日々を送る百合が直面する恋の模様と、価値観の異なる戦時中の世界を背景とした切なさが彩りを添える

特攻隊員との恋という、どう考えてもハッピーにならなさそうな題材なので、想像にあるオチ以上のものは無く、過程の展開で魅せるタイプ
特攻を誉れとして捉える価値観のギャップや、ぶつけようの無い感情で揺れていた百合の成長、そしてもちろん彰との恋模様
それぞれ描く部分は描いているものの、悪く言えば中途半端かな
フォーカスされている恋愛に関してもそこそこに、母親との関係みたいな成長面も伏線を放っておきながら、何だかフワッとしたまま解決する
その割には特攻隊メンバーのドラマなども盛り込まれていて、サブプロットが多すぎてメインプロットが丁寧に描かれていない形になってるんだと思う
両面共にオチに何とか集約こそされてるものの、サブプロットも展開は曖昧で納得感に欠けるようにも感じる

一方で特攻隊員の人間性にしっかりフォーカスしているのは好感が持てる
鶴屋食堂のシーンは全般人間らしいやり取りと、その裏に滲む儚さが同居していて個人的にはかなり刺さった
思えば特攻隊員との恋愛というのも、その人間性を裸にしていく設定と捉えれば、良いアプローチかもしれない
総じて特攻隊員というデリケートなテーマを、恋愛映画というジャンルながら敬意を持って丁寧に描いているのは良かった

泣かせポイントに依存しすぎて何か色々と惜しい点も多い作品ではあるけど、一気呵成に畳み掛けるような感動シーンのつるべ打ちには、泣く人もいるのも納得できる
原作の続編で彰くんが現代に転生すると知った時は白目剥いたけど、本作はそんな悪くない作品なので観ましょう
エイデン

エイデン