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あ・うんのzhenli13のレビュー・感想・評価

あ・うん(1989年製作の映画)
3.6
久世光彦演出のドラマ『あ・うん』が好きだった。調べたら2000年の新春ドラマだった。『時間ですよ』などは全くみていなかったけど久世光彦の本が好きで、やはり向田邦子と彼との間柄というのは特別なものがあり、あのころ正月になると久世演出の向田邦子原作ドラマを楽しみにしていた。向田邦子じゃなくて青木玉原作などもあった。加藤治子、田中裕子、小林薫、四谷シモン、森繁久彌などの常連が出てくる久世ドラマがとにかく好きだった。

1980年のNHKドラマ『あ・うん』の方は観たことがなくて、調べたら主演の門倉は杉浦直樹、水田がフランキー堺、水田の妻たみは吉村実子だった。1989年の本作は高倉健、坂東英二、富司純子。2000年の久世ドラマは小林薫、串田和美、田中裕子。うーん。
「たみ」は降旗康男作品の富司純子が圧倒的に好い。というかこの映画『あ・うん』は富司純子のまさに花が咲いたような純粋な可愛らしさでもっているようなところもある。ソフトフォーカスのアップでその華をしっかり見せてる。高倉健の門倉は格好良すぎて重みがありすぎるきらいがあり、坂東英二の水田(私が長年この映画を観る気になれなかった理由がこれ)はどうしても素人ぽくて無粋すぎる。生真面目で無垢な感じはよかったけど。門倉の妻役宮本信子は丸眼鏡の光が活きて後半につれ味わい深くなってきた。門倉にひかされる芸者が山口美江、水田の娘が富田靖子で恋人が真木蔵人というのは時代を感じる…
NHKドラマの吉村実子は土臭いし杉浦直樹は真面目すぎる(あくまで印象)。しかしフランキー堺の水田、門倉の妻が岸田今日子、芸者が池波志乃、映画には登場しなかった山師の水田の父が志村喬というのはぜひみてみたい。
久世ドラマの小林薫はせんからの危険な色気が溢れ返ってて、女にまめな門倉役は合っていたと思う。とくに田中裕子とは久世ドラマでの共演が白眉(『響子』というドラマがほんとうに美しくて大好きだった)で、田中裕子自体も大変色気のある巧い役者なのでなんとなくぽわんと抜けたところのあるたみの役も好かったけど、やはり富司純子の華には敵わない。門倉の妻役の樋口可南子は色気を抑えてややコミカル、串田和美も悪くないけど、という感じ。水田の父の森繁久彌は安定の森繁久彌。

というわけで、私個人としては門倉が小林薫、たみが富司純子、水田がフランキー堺、門倉の妻が岸田今日子、で観てみたかったな。世代バラバラだけど。

記憶にある久世ドラマも本作も、向田邦子原作の文章がかなりそのまま反映されてる。本作のポスターになってる修善寺の橋で三人が寛いでるスチールが好いんだけど、映画ではほんの一瞬だった。あの修善寺のシーン好きだなぁ。富司純子みてたら、ああいう関係の中で生きてたらずっと女でいられるし寧ろずっと恋する少女の気持ちでいられるよなぁとしみじみ思った。というより、たみがあねさん被りでまめに洗い張りなんかする一方で、夫の夏物背広羽織ってカンカン帽被ってひとりガラス障子の前で踊るような人だから、門倉もずっと好きだったんだろうと思わせる、向田邦子の筆に唸らざるを得ない。その役に富司純子がとても合っていた。
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