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カールじいさんの空飛ぶ家のHicKのレビュー・感想・評価

カールじいさんの空飛ぶ家(2009年製作の映画)
4.7
*軽度のネタバレあり

《過去に縛られたジイさんが"UP"する胸アツ大傑作》

【あらすじ】
カールは最後にエリーと2人で夢見た地を目指し、彼女との思い出が詰まった"家"と共に飛び立つ。ただ、どんどん冒険を進めていくうちに浮力に対して"家"の重さがネックになっていく。その家に"縛られ"、なかなか思うように行動ができないカール。そんな中、ラッセルを助けたいと一歩踏み出そうとした時に彼が思いついたのは、重さの原因となっていた"思い出たち"を捨てることだった。

【カールが"UP"する】
まさに『家=エリー』であり、過去の思い出に"縛られて"いては新たな一歩が踏み出せないというメッセージを全編にわたり表現した作品。ほんの少し軽くなれば人生が"UP"していくという原題通りの内容と視覚的表現が秀逸だった。カールが家を捨て新たな挑戦に挑んだ時、不思議な事に捨てられた家は目的地に自然と着いていた。これはエリーが彼を肯定してあげているようにも思える描写。素敵すぎる。

【バディとして】
妻に先立たれたカール、仕事ばかりの父と心を開けない継母を持ったラッセル。取り残されてしまった二人という共通点はバディ物としても熱い。四角と丸。共通点に反し、デコボコ感を表した対照的なキャラデザも面白い。ラッセルは典型的なアジア人の極論とも言えるデザインだが、不思議な事にとても愛おしく思えてしまう。

【ラッセル】
「最後のバッジを集めたら父と話せる」と言っているかのようなセリフがあり、仕事で多忙な父というよりもネグレクトに近いものを感じてしまった。テント張り、ロープ登り、サバイバル知識、ボーイスカウトに反して彼の出来ない事が一般的に「教えるのは父の担当」な事で統一されてるのも裏付けになっていた気がする。好奇心旺盛なラッセルだからこそ「ただ、教えてくれる人がいなかった」という切ない背景が伝わってきた。最後のバッジ、ラッセルの欠けていたものは、愛を返してくれる存在だったのかもしれない。

【セリフを削った美しさ】
人生を見せる無声映画テイストの冒頭から、取り残された現在を映し出すオチまでの流れが素晴らしい。その冒頭のように、全編を通して全てをセリフで表現しない抽象的な美しさに包まれた作品だった。本当に魅力的。セリフの少なさがマイケル・ジアッキーノの美しいワルツを更に際立たせていた。

【コメディー】
ドラマ性もさる事ながら、細かく伏線を拾うコメディーも秀逸。特にダグは脇役ディズニーキャラの中で一番好きになった。彼を翻訳したセリフは「ペット」や「ワンダフルライフ」よりも上手く犬の特性を表せているのではと思ってしまうほど。そして、カールの驚異的な身体能力から生み出されるワイヤーアクションも魅力的(笑)。

【欲を言えば】
序盤の美しいストーリーテリングに対し、中盤以降のSFチックな世界観は少し浮いて見える。もう少しSF色を抑えて欲しかったとも思うが…、そうするとダグたちの出る幕が無くなるので…、やっぱり何でもない(笑)。

【総括】
ドラマ性、メッセージ性、芸術性、コメディー、かわいさ、アクション、音楽、全てにレ点を入れるだけに留まらず、全ての要素が自分の中では満点に近い。その矛盾した要素同士を融合させられるピート・ドクター監督らの凄さに改めて驚かされた。前作「ウォーリー」と今作でピクサーの芸術性を決定付けた作品であり、自分のオールタイムベスト級の作品。
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