荒野の狼

櫂の荒野の狼のレビュー・感想・評価

(1985年製作の映画)
4.0
櫂(かい)は、宮尾登美子原作の小説を1985年に映画化したもの。高知市を訪れる機会があり、高知出身の宮尾は自伝的小説四部作『櫂』『春燈』『朱夏』『仁淀川』を地元を舞台に書いたことを知った。そこで旅の思い出にと本作を鑑賞した。宮尾自身は、本作に開始32分のところで、日本髪に黒い着物でカメオ出演。岩伍(演、緒形拳)の興行の際に、最前列に左とん平と島田正吾に挟まれて座り、女義太夫の真行寺君枝の声を褒めて「“ろしょう”の生まれ変わりみたいじゃね」と一言セリフもある。宮尾は1926年生まれなので、当時は59歳ほど。
主演の十朱幸代は、緒形拳との蚊帳の中での艶のある場面から、子宮筋腫で緊急手術となる青ざめた表情まで、様々な情景でリアルな演技をみせ、個性の強い緒形拳に一歩も引けをとらない存在感。共演者では女優陣が豪華で、石原真理子、真行寺君枝、草笛光子、名取裕子、白都真理から、宮尾がモデルである綾子を演じた子役の高橋かおりに至るまで好演。
本作の舞台は、高知城の近くの「鏡川」と「江の口川」周辺の狭い地域が舞台なのであるが、映画では石垣の見える堀のような風景は登場するが、高知市と断定できるような場面がないのは残念。ちなみに、現在、寺田寅彦記念館があるあたりは、作品の舞台には近い。高知県立文学館の発行した図録「宮尾登美子:八十八年の生涯」には、宮尾の小説の舞台の高知の地域の複数のマップが、原作での引用文と現地の古写真と数ページにわたり掲載されている。映画(小説)の舞台が、高知城のすぐ周囲であることがわかり、訪れた人にとっては作品がより身近に感じられるものになっている。
四部作で映像化されているのは、1998年のNHKドラマ『春燈』だけだが、こちらは本作の最終版くらいから物語が始まり、緒形と十朱の役は藤竜也と真野響子で本作と似たようなイメージで、綾子役は松たか子が演じている。本作のファンには、映画のイメージそのままに鑑賞できる作品として勧めたい。また、本作で十朱に同情した視聴者には、『春燈』で逞しく自立する姿(演、真野響子)に溜飲が下がり、映画のままでは終わらない強い女性像を見ることができる。ちなみに、この作品では、高知城が何度も登場し、作品の舞台を視聴者が感じられるようになっている。
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