Ricola

パンチドランク・ラブのRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

パンチドランク・ラブ(2002年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

いつ爆発するかわからない。いつもニコニコしている人ほど怒ったときが怖いというのは、そういったゆえんだろう。

内に秘めて堪らえているバリー(アダム・サンドラー)。
姉たちの干渉や揶揄にうんざりし、本当の自分をさらけ出すことを怖がっている。
自分の核心をつくような、本音であったり弱みとなると自分で思っている部分を、周囲に知られることを異常に嫌がる。さらに孤独であり精神的に不安定である。
それによって生じる怒りや悲しみが急激に高ぶると、衝動的に破壊行動にうつしてしまうのだ。


スーパーのおびただしい数の商品が並ぶ陳列棚や姉と彼女たちの夫や子どもが大集合した細長いテーブルのショットは、バリーが感じているであろう威圧感や閉塞感を示しているようだ。
また、頭が殴られたような、グワングワンするような絵の具が入り混じっていくような、もしくはテレビの電波のテスト中のような映像が場面転換時に挿入されることがあるのも、バリーの精神状況や恋の衝撃を示しているのかもしれない。

扉が開きっぱなしの廊下や飛行機に乗り込む長い道などの奥行きの深いショットが何度か見られる。
例えば、電話を受けているバリーは衝撃を受けて徐々にカメラが遠ざかっていく。部屋の扉枠が少しずつ露わになっていき、ショットに奥行きがうまれる。
静的にしろ動的にしろ、こういった奥行きのあるショットは、閉塞感や孤独をさらに強める。

この作品におけるキーアイテムは電話だろう。例えば、バリーが7人もいる姉の何人かから同じような話が何度も電話で来たり、気まぐれでかけてみたコールサービスの女から脅しの電話が来たり。またはバリーがマイル交換のために買う商品について聞くためにかけたり、リナに会うために電話をかけたり…。
こうして列挙すると、バリーの心の引き金を引くのは電話がきっかけであることが多いのがよくわかる。

リナに最初は自分を偽って接していたが、だんだん自分が抑えきれなくなると同時に彼女にはありのままの自分を見せていいのだと、こわばっていたバリーの心は柔らかさを帯びていく。なんとか抑えたり破壊行動で解消していた本当の自分を解放してくれたのは、ありのままでいられる相手との出会いなのだ。
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