橘宏樹

パンチドランク・ラブの橘宏樹のレビュー・感想・評価

パンチドランク・ラブ(2002年製作の映画)
4.1

青が鮮やかでありながら繊細なのは、スーツだけじゃない。迷いなく暴力的な青。希望や優しさが溢れる青。時折背景に滲む、プリズムから漏れる閃光のような青。目に痛いようでいて、ボカシが入る。

それは一見風変わりなコミュ障に見えつつも姉達が決めつけるほど気弱過ぎもしなければ愚かでもない、事業経営もできるしケジメもきっちりつける青。

本来様々な赤が担いがちな役割を、徹頭徹尾、同じ青が意外なほどに果たし切る。

これが実に新しい。青の発明と言っても過言ではない。

そして、スジ書きと演出の妙。

キレ癖の深刻さや取り扱いが最後までわからないのがいい。そりゃああんなにデリカシーのない姉が7人もいればストレスは溜まるよ。モノに当たってるだけまだマシとも言えそうだし、キレ癖が元で恋が飛んでしまう可能性もあった。

それに重ねて、ハーモニウムはどうなるんだろう、プリンはどうなるんだろう、テレクラ詐欺はどうなるんだろう、伏線を引っ張って折り重なるようなハラハラを維持する演出も見事。何より、それぞれさほど大した話でもないので疲れさせられず、これまたよく調整されているし、解決する際もあたら爽快過ぎないのもリアルでイイ。

そう、色づかいもスジ書きも、鮮やかでありながら繊細。目に痛いようでいてボカシが入る。

随所で見え隠れする才能のキレが、雨露に滲む車のテールランプのように、イイ感じにボカされた、そして、それゆえに全体としてキレのいいオシャレさが滲む。

そういう青。
橘宏樹

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