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ストーカーのKSatのレビュー・感想・評価

ストーカー(1979年製作の映画)
4.4
ひたすら水が溜まっていて時たま火が現れ、死が近くにあるらしいのに誰の死も描かれず、口を開けばわかるようなわからないような議論があり、それ以外はただただ静寂が広がる。

町山はタルコフスキーがロシア正教的な価値観のもとに映画を作ったというが、コンチャロフスキーは「いや、カトリックの価値観の方が強かった」と言うあたり、実は誰もこの映画を完全には理解できていないのは明確だ。

いや、理解する必要など、ない。そこには廃墟があり、水があり、火があり、信仰がある。それだけで十分だ。蓮實が云うようにもしかしたらこれは「映画」としての信仰心が薄いかもしれないが、何も起きていないのにいつまでも画面を見ていられるなら、これが某かの力を放っていることは何者にも否定できない。

ドラマ「TRICK」の佐野史郎が出てくる回では「ゾーン」という概念が出てくるし、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」に出てくるバジリスクのいる「秘密の部屋」はこの映画のゾーンまんまだけど、いずれも冷戦が終わってからの「西側」の映画。この映画は冷戦下の「東側」の大国・ソ連で、国費を使って作られたのだ。そりゃ、こんな映画を作るソ連とアメリカが仲良くできるわけがない。

そんな映画ではあるが、「自分の記憶が実体化される」惑星ソラリス、「蝋燭の火が消えなければ世界が救われる」ノスタルジア、「マリア様とセックスしたら世界が救われる」サクリファイスと、自らの願望をなんとかして叶えたい主人公が登場する点は一貫している。

特に「惑星ソラリス」以外の映画では、皆、「世界がいかにして救われるか」を願って止まない。タルコフスキーはよほどの心配性だったのだろう。心配性はストレスの素。彼はそれ故にガンになり、54歳で亡くなっている。かわいそうに。
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