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砂丘のKSatのレビュー・感想・評価

砂丘(1970年製作の映画)
4.0
中学生の時ぶりに再見。

今、改めて大人になって観ると、かなり感想が変わってしまった。昔は大好きな映画だったんだけどなあ。

学生運動に始まり、セックス、砂漠、セスナ、車、ありとあらゆる広告…そして最後には、まるでポップアートのようなイメージがピンク・フロイドとともに炸裂する。

しかし、実のところこの映画は、人もモノも全てが記号化されている点で最初から最後までポップアートだといえるかもしれない。この映画は、モチーフこそ反抗的な若者たちで、ニューシネマらしい作風に見える。しかし、実のところ彼らは極左活動家の学生たちにもマッチョなカウボーイたちにも染まらない、何にも属さず、ただ自由に生きたい無責任な存在でしかない。しかし、彼らが属さないどちらのグループも、彼ら自身も、極端に記号化されている。

彼らを見つめるアントニオーニの眼差しは、改めて見るとどこか大学の先生みたいな感じがした。要するに、ちょっと頭デッカチなのだ。

ピンク・フロイドの使い方とかも、「ザ・ウォール」を観た後に改めて観てしまうと微妙すぎるし、砂漠での乱交場面も長すぎる。サイケデリックで難解なように見せて、実のところは固いけど明解な映画なのだ。

しかし、もはやそんなことはどうでもいい、と思えるほど、ハッとさせられるようなショットの連続。ウィリアム・エグルストンの写真のようでもあり、エドワード・ホッパーの絵画のようでもあり、しかしそのいずれとも違うような、視覚芸術の世界。世の中には、撮るべきものが沢山ある。

前作「欲望」ではロンドンの若者と人々の営みを冷めた目で捉えていたが、その語り口は不条理でどこか幻想的だった。この映画でも不条理な味わいはあるが、特にクライマックスあたりにものすごく熱が感じられるため、印象は大きく異なる。

イタリアで「愛の不毛」を題材に不条理映画を撮ってきたアントニオーニが、突如イギリスやアメリカで映画を撮り始めたのは、面白い。個人的には、この後に江青に招かれて撮ったけど失敗に終わったドキュメンタリー「中国」が気になる。日本ではなかなか観ることが叶わないけど、イギリスやアメリカを乾いた視点で皮肉めいた捉え方をしたアントニオーニは、果たして毛沢東時代の中国をどのように撮ったのだろうか。
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