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タクシードライバーのarchのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
4.2
何者でもない自分に嫌気がさす。悪が道中に溢れるこの街に反吐が出る。やるべき事があるんじゃないか。そうやって男は静かに狂い出す。

正直、彼の行動は独りよがりな正義の押し付けでお前もまた、そこらのクズとは変わらないように思う。
しかし彼の内面だけで見れば、救いたかった者を救い、何物でもない自分から変わることが出来た。最後の腫れ物が取れたような表情を見ると何だか清々しいものを感じる。結果だけ見れば1人の少女を救えたわけだし。

映像と音楽も秀逸で引き込まれたし、どんどん深みにハマっていき、危険な人間になっていく描写は震えた。

総評としては独りよがりな作品ではあるが強烈に記憶に残る良い映画だった。


※追記 20230904
独りよがりなマッチョ幻想。キャラクターの人物像はポール・シュレイダー的な不眠症男。スコセッシ映画の自罰的な男性像とは似ているようで微妙に違う。
トラヴィスの物語はあまりに上手く行き過ぎることの不穏さが感じさせる。最後にベティをタクシーに乗せる展開。あまり、綺麗だし、男の人物像に不釣り合い。
それをトラヴィスという男の変貌の物語として、「何者かになった」話として観ることもできるだろう。しかし何か観客が見過ごしているような、前提にある何かに気づいていないような不穏さがあり、もしかするとそれは「妄想」が混じっているのではないかという不穏さなのかもしれしない。全身撃たれて死なないトラヴィスがどうも、幼稚な妄想のようで合点がいかないのだ。
このハッピーエンドにして、この不穏さ、何か違うものに焦点があっているような感覚、それが唯一無二の本作の面白さだろう。
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