せりふとロケーションの雰囲気たっぷりな艶やかさをみごとに吹き飛ばす、山田五十鈴の強烈なバイタリティー。「女の哀しみ」なんて形容ではなまやさしすぎる怨嗟の声を、1930年代にしてここまで明確な形にしてしまった溝口健二という男の胸襟をしのばせる。
主体性を存分に発揮する山田がしたたかな暗躍っぷりを見せながらも、最後にはその限界を露呈させるという点では、ほとんどなしくずし的に転落しながらも颯爽とした印象を残す『浪華悲歌』ときれいに対称的。
木綿問屋の旦那が追い出されて街をぶらつくシーンが、とてもとてもよいのです。