たき

花とアリスのたきのレビュー・感想・評価

花とアリス(2004年製作の映画)
4.0
岩井俊二がつくづく変態なので観ました。(ほめてます)

ずっと気になってたけど、なかなか縁に恵まれなかった一品。DMM TV、お試しで入ってみてよかった。

個人的には激しく胸糞展開なのですが(まーくんかわいそすぎる)、なるほど、名作と言われる所以がよくわかった気がします。

好きな人に好かれる自分になりたくて、相手の記憶を捏造することさえ厭わない少女・花。

偽りの記憶を植え付けられたことで、本当の自分がわからなくなる先輩・まーくん。

両親の離婚から、自らのルーツと愛を見失った少女・アリス。

以上の三名からなる、三つ巴、凄絶なるアイデンティティ争奪戦というわけなのですな。

これが緻密な脚本と変態的なまでに美しくも瑞々しい映像で語られる。おもしろくないわけがない。

地味に今さらながらに思い知らされたのは、自分というものは、こんなにも些細なきっかけ(幼稚な嘘)で、こんなにもあやふやになってしまうくらい脆弱なものなのかということ。

それを手に入れるためなら、相手を騙すことだって厭わない。
誰かがそれを手にしようものなら、相手が親友であっても邪魔をする。

なりふりかまわずとにかくなりたい自分になりたい、という幼稚で凶暴な、けどそれはきっと、誰もがかつて味わったことのある原始的な欲動なのかと思うのですな。

花の場合はまさに瓢箪から駒でしたが、最後の最後で、アリスが大切な自分も、なりたい自分を構成する大事な要素だと気づくところはよきでした。
まーくんはそうなのかよ、と思わないでもないですが、ぜんぜんありえることではあるのかも。なにより彼のあくなき自分への探究心があったからこそ、アリスはお父さんとの思い出を追体験することができたのだろうし、あのハートのエースを取り戻すこともできたのだろうし。(もちろんアリス自身の探究心あればこそ、というのは言わずもがな)

引き出しの奥にしまっておける、自分のルーツとなるべき思い出。そんなんそういえばあったなあ。

そうなるとひとはもう、こわいもんなしなんですかね。
ラストのバレエのシーンは、もう。生まれてこの方バレエで泣いたのははじめてでした。

蒼井優はまったくもってこの時点ではぜんぜん完成されてないんだけど、だからこそこの作品に出るべくして出たというやつなのですな。やはり岩井俊二はおそるべき変態なのだと思います。(ほめてます)

出てくるチョイ役出てくるチョイ役すべて名だたるひとたちばっかで得した気分でした。
純くんは声だけの出演ですかもしかして?
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