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ライブテープのkunicoのレビュー・感想・評価

ライブテープ(2009年製作の映画)
4.5
この映画は奇跡かよ。
出所不明の涙に自分でも驚く。

お正月で人がごったがえす吉祥寺。
前野健太、いわゆるギター侍がひたすらに歌いながら吉祥寺の街を練り歩く。

まず、前野健太という才能に脱帽した。
曲も良ければ、歌声もギターの音色もクセになる。
サングラスを外すよう松江監督に言われて、道行く子供にそっとそれを手渡す姿には思わず「かっこいい…!」と呟いてしまった。
そしてどこからともなく現れる2つ目のサングラスには大いに笑わせてもらったし、彼の人柄にも知らず知らずに惹かれていった私です。
しかも松江さんの色んな要求に黙って応える感じがもう…。笑

そしてカメラの立ち回りが素晴らしいと思った。
最初はアーティストのPVの様に歌う前野の横をぴったりと張り付いて撮っていく。
かと思えば、多くの人が行き交う駅前のアーケードでは前野との距離感を十分に取り、ゲリラ撮影を目撃する通行人としての視点を与えてくれる。
時には前野の先をカメラが行き、彼の視点で吉祥寺の街を見ることが出来る。
「街中をギターを弾きながら歩いていく」という一つの現象を、ワンカットであるのにも関わらず多角的に捉えていることに、とてもよく考えられている映画なんだなと思った。

そしてやはり吉祥寺という場所がこういったドキュメンタリーを撮るのにふさわしい。
人が込み合う商店街や初詣、狭くてひっそりとしたハモニカ横丁、演奏できるステージのある井之頭公園など、周りの景色に「歌う」という行為が溶け込んでいた。

ドキュメンタリーと言いながら、ストーリーが見えてくることも1つの魅力だと思う。
演出にあざとさを感じず、むしろそれがあることによって生まれる感動の存在に気付く。
松江監督はじめ撮影のスタッフたちは、実際に目の前で繰り広げられているライブに絶対に鳥肌を立てたはずだろう。
それくらいの熱量を感じることが出来た。

久々に骨のあるドキュメンタリーに出会うことが出来て大満足です!!
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