半兵衛

翔んだカップル オリジナル版の半兵衛のレビュー・感想・評価

3.0
本来ならラブコメな題材なはずなのに、そこへ男女の性の問題を持ち込みテンポを停滞させてなおかつ少年少女が大人のような会話や行動を取る気味の悪さを感じさせる暗いアイドル映画に。でもロマンポルノ出身の相米監督のことを考えると、アダルトな映画を作りたかったはずなのにこんなジャリ(子供)向け映画を撮らされることへのせめてもの抵抗がこのいびつなドラマだったのではと考える。

あと興味深いのはオープニングが長回しではないこと、いつもだったら苦しいくらいにカメラを長く回して息が詰まるような世界観を観客に提示するはずなのにこの作品では普通にカットを割っているので恐ろしいくらいあっさりと見られる。ただ映画全体としては長回しなど相米演出があちこちに存在するが、まだただやってみた程度になっていて後年の美学としての完成度には至っていないためまだ相米のなかに自分の演出術への自信が無かったのかも。それが次作の『セーラー服と機関銃』で仙元誠三という長回しが得意なカメラマンと組んだことで相米スタイルの演出がスパークしていくことに。

役者に本当の川で筏を漕がせたり(しかも川に落ちる)、車が走っている交差点のど真ん中に役者を置いて芝居させたりとアナーキーな相米流役者指導はデビュー作から健在。なかでもブレーキが効かない自転車で坂を下りゴミの中に突っ込む薬師丸ひろ子の体当たり演技が壮絶(『青春の門』で大竹しのぶが似たようなことをやっていたけど)、しかも自転車で事故ったあとも芝居を続けている。

鶴見辰吾と薬師丸ひろ子が偶然から一緒の家に住むことになる青少年の男女を初々しく好演、でもそれ以上に長く回すカメラのなかで変な動きをたびたび見せる二人の姿は青春の瑞々しいドラマに活力をもたらしていてもしかしたらこの二人の芝居を見て相米監督は自分の指針を確認したのかもと思ったりもする。特に鶴見と薬師丸が猫のようにお互いの頭でじゃれあい抱き合う危うさと可愛さが入り交じった演技は二人の演技と相米監督の演出が成立させた名シーン。

薬師丸に気持ち悪くつきまとうストーカー野郎を演じる尾美としのりの好演も印象に残る。
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