OASIS

コロッサル・ユースのOASISのレビュー・感想・評価

コロッサル・ユース(2006年製作の映画)
3.6
リスボンの郊外にあるスラム街フォンタイーニャス地区を舞台に、家を飛び出した妻を探す男性の姿を追った作品。
監督は「ヴァンダの部屋」等のポルトガルの巨匠ペドロ・コスタ。

ストーリーなんてものは全く以って分からず、登場人物が語る台詞が誰に向けられているものなのかも定かでは無く。
宙にユラユラと漂い続ける言の葉を追って、フラフラと今と昔を行き来する時間旅行の様な感覚。
光と影、過去と現在が目まぐるしく移り変わり、激しくクロスする画面と構図は徹底して動こうとしないカメラとは裏腹に忙しなかった。

舞台は「ヴァンダの部屋」と同じくフォンタイーニャス地区。
土地開発によってみるみる近代化し真新しくなって行く建築物と、過去の遺産の如く荒れ果てた住宅街とが混在する、まるでそれ自体が映画の舞台の為に存在するかのような光景が目の前に拡がっていた。
かつてドラッグジャンキーだった「ヴァンダの部屋」の主人公であるあのヴァンダ・ドゥアルテも登場し、娘が産まれすっかり落ち着いた姿が別人の様であった。
街が変われば人も変わる、そしてその逆もまた然り。

妻のクロチルドに出て行かれた老人ベントゥーラは、新興住宅と荒れ果てたかつての住処を行き来する。
部屋に入った途端包まれる漆黒の闇、そして窓から差し込む光の筋。
何気無い室内のシーンでも、その画面は時々刻々と柔軟に変化を遂げる。
光と闇が混じり合うかと思われる瞬間に、ハッキリくっきりと見事に色が分かれて行くというキレの良い編集が格好良い。

激流の如く流れる時間に逆行するように、妻への想いを認めた手紙の文章を読み上げるシーンが繰り返されるのは時間の檻に囚われた者の叫びか。
「白い部屋に住めば妙なものを見なくて済む」という台詞のように、過去の痕跡が白く塗り潰され薄れゆく寂しさを感じる作品だった。
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